【2024年最新】12本爪アイゼンの選び方とオススメ7選を元登山ガイドが徹底解説
雪山登山ではアイゼンが必要です。アイゼンには10本爪や12本爪などありますが、単純に爪の数だけでは選べません。行く山域や用途、アイゼンの歩行技術によって選び方が変わります。
この記事では、12本爪アイゼンの選び方から登山靴の相性、お手入れ方法まで徹底的に解説しています。この記事を読めば、自分で自分の用途に合ったアイゼンが選べるようになります。
■初心者にはグリベルのエアーテックがオススメ
→歯は短いですが、必ずしも長い歯が良いとは限りません。
■様々な雪山に行きたい人はペツルのバサックがオススメ
→ペツルはオプションパーツがとにかく多く、汎用性が最も高い。
■軽くてコンパクトなアイゼンが欲しい人はブルーアイス
→圧倒的な軽さとコンパクトさ、それでいて性能は問題ありません。
アイゼンとは?雪山で自分の身を守るための重要装備。
アイゼンとは、登山靴の底につける登山ギアの事を言います。アイゼンの重要性について解説します。
雪山登山の魅力とアイゼンの重要性
雪山登山では雪の上を歩きますが、靴が滑ってしまうととても危険です。道路などの雪道を歩いていて、思わぬ所でコケて痛い目を見た人もいるはず。山でそんな事になるのは大ケガのリスクです。アイゼンを必ず持って行きましょう。
12本爪アイゼンの選び方の基礎的知識
12本爪アイゼンはどれも同じ様な形状をしていますが、詳しく見てみると少しずつ違います。見るべきポイントについて詳しく解説します。
前爪と全体の爪の長さは、どれだけ傾斜の強い所を想定しているか。
モンベルのスノースパイクは前爪がほとんど出てなく、全体的に爪が短いです。ブルーアイスのハーファングはしっかりと前爪が出ていて、爪が全体的に長いのがわかります。二つの違いは以下のとおりです。
■前爪があまり出てなくて、全体的に爪が短い
→傾斜の強い雪面は苦手です。雪原などは歩きやすいです。
■前爪が出ていて、全体的に爪が長い
→傾斜の強い雪面が得意です。登りも下りも安定感があります。爪の短いアイゼンよりも、歩行技術が必要です。
上の2つのアイゼンは極端な例ではありますが、12本爪アイゼンの前提は、「爪が出ていて長い」です。
2列目の爪は、より傾斜の強い雪壁での安定性を決める。
12本爪アイゼンは、2列目の爪も重要です。2列目の歯が前に出ていると、より傾斜の強い雪や氷での安定感が出ます。登りでのアイゼンのサポート力が増しますが、アイゼン歩行技術が求められます。
2本目以降の歯は、片効きの安定性と、歩きやすさに関わる。
エアーテックは爪があまり出ていませんが、バサックはよく前に出ています。2列目の爪が前にでているほど、強い傾斜で登りやすく、トラバース時も安定してアイゼンが雪面に刺さります。しかし、2列目の爪が足の内側に引っ掛かるリスクも増えるので注意が必要です。
下から見ても分かりやすいです。ペツルは全体的に広く攻撃的なのに対し、グリベルのエアーテックは3列目が横に広いです。エアーテックは、トラバース時は3列目の爪が雪を噛んでくれる作りです。
初心者のうちは、2列目の歯の形状が大事です。アイゼンで足を引っかけて転倒し、骨折してレスキューを呼ぶといった事故も起きています。
2列目以降の爪が長いか短いかで歩きやすさが変わる。
メーカー(もしくはモデル)により、爪がどれくらい長いかが違います。BDとグリベルはかなり歯が摩耗していますが、それでもペツルは歯が長いのが分かりますね。全体の歯の長さによる特徴は以下のとおりです。
■全体的に爪が長いと、雪と氷に対して安定感が強くなります。しかし、慣れないうちは爪が効きすぎて、逆に歩きづらい時もあります。
前爪の形状による特徴。初心者は横爪でOK!
前爪には、大きく分けて横爪と縦爪の2つがあります。初心者はまず横爪を選びましょう。バリエーションやアイスクライミングをしたくなったら縦爪か横爪かを考えると良いです。
モデルによっては、前爪の長さを調整できる。
ワンタッチ式の物だと、ビンディングの位置を調整して前爪の長さを調整できるモデルもあります。適正な長さに関しては、説明書を読みましょう。
素材による違いと特徴
アイゼンの歯には、大きく分けて3種類あるので解説します。
クロモリはとにかく丈夫で長持ち
クロモリ製のアイゼンは、とにかく丈夫です。爪先が丸くなってきても、研ぐことで寿命が延びます。これから長く雪山をやる方にはオススメの素材です。
ステンレスは錆びにくい。
錆にくく、クロモリに比べて少しだけ軽量です。僕の感覚ではありますが、クロモリやスチールに比べるとやや摩耗が速いです。その代わり、研ぐのは一番簡単だと感じます。
スチール製は丈夫で長持ち
まだ数回の使用ですが、僕の感覚ではクロモリ並みに丈夫です。スチールに強度を持たせるためにクロムとモリブデンを配合した物がクロモリである事から、一番強度があるのはクロモリだと思います。
アルミ製は一番軽量だけど、寿命も短い。
初心者はアルミ製アイゼンを選んではいけません。あまりにも爪の消耗が速いからです。アルミ製は、アルミ製のメリット・デメリットを良くわかっている人が使うべきだと思います。初心者にはデメリットの方が多いでしょう。
アイゼンの取り付け方法による違いと相性について
アイゼンの装着方法には、ワンタッチ式やセミワンタッチ式・バンド式などがあるので、詳しく解説します。アイゼンの装着方法は、購入後にしっかりと付属の説明書を読んでください。
アイゼンには大きく分けて3つの種類がある。
アイゼンの装着方法は、大きく分けて、上の3つです。初心者へのオススメはセミワンタッチ式です。雪山のバリエーションを目指す人にはワンタッチ式がオススメです。
自分の登山靴にコバがあるかどうかを調べよう。
登山靴には、上の写真のとおり、コバと呼ばれる凹みがあります。コバによって、選べるアイゼンが変わります。靴によって細かな違いはありませんが、特徴的には以下のとおりです。
■コバが後ろだけにある
厳冬期の冬山を想定した登山靴、もしくは残雪期の少し暖かい時期を想定した登山靴のどちらかです。靴に保温材が使ってあり、ソールが硬いと厳冬期向けの登山靴です。
■コバが前と後ろにある
厳冬期の冬山を想定した登山靴で、保温材も入っている可能性が高いです。ソールも硬く平らで、アイゼンを選ばない可能性が高いです。
■コバが無い
恐らく冬山は全く想定されていなくて、保温材が使われてない可能性が高いです。靴全体が柔らかく、12本爪の硬いアイゼンを使うと足が痛くなるかもしれません。
コバが後ろにあれば選べるアイゼンの種類も増える
ソールもある程度硬いことが予想されます。アイゼンとの相性が良い可能性が高いです。ただし、歩行性能を重視してつま先部分が沿っている物が多いです。小さい靴だと、前のビンディングが不安定になる可能性があります。
前後にコバがある靴はアイゼンが密着して安定性が増す。
ソールも硬く、平らで、保温材の入った登山靴である可能性が高いです。アイゼンとの相性はかなり良いでしょう。ワンタッチ式の物だと、つま先部分が密着して安定感が増します。
コバが無い靴は選べるアイゼンが限られる。
コバの無い靴は「冬山を想定されていない=防寒性能が無い」である可能性が高いです。歩きやすさを重視しているのでソールは柔らかく、硬いアイゼンを使うと足が痛くなる可能性があります。
「普段使っている靴で、軽い雪山にハイキング程度に行ってみたい」という方には、12本爪ではなくてモンベルのスノースパイクがオススメです。センターバーが柔らかく、ソールが柔らかくてつま先が沿っている靴との相性がバッチリです。ただし、急な登りなどは不得意なので、森林限界を超えず、リスクの少ない範囲に留めておきましょう。
靴に合わない場合はオプションパーツで対応しよう
アイゼンと登山靴の相性はあります。相性はオプションパーツを使用することで解決する可能性があります。
僕が経験した「相性の合わないアイゼン」は、ほとんどが前側のビンディングのミスマッチでした。靴やサイズによって、つま先側の「細い・太い&低い・高い」に合わせて前側のビンディングを調整します。
各メーカーからオプションパーツが出ていますが、足の小さい方は要注意です。ビンディングを取り替えられないアイゼンもあるので、足の小さい方はビンディングを取り替えられるものを選んでおいた方が無難です。
小さい靴への対応方法
グリベルとペツルは、センターバーによって小さい靴にも対応させることが出来ます。グリベルに関しては、こちらのYoutubeが分かりやすいです。
女性用の極端に小さい登山靴だと、バーが飛び出してしまう場合があります。(ほとんどありませんが)こうなると飛び出た部分を切る必要があります。詳しくは、付属の説明書を見て下さいね。
アイゼンのお手入れ方法と保管方法
アイゼンのお手入れ方法について解説します。
一番大事なのは爪がちゃんと適切に尖っているか
一番大事なのは、爪が適切に尖っているかどうかです。尖らせすぎると摩耗しやくすなるので、元の爪と同じぐらいの角度(60度前後)を目安にすると良いです。ペツルの説明書に60度と表記があったと思います。
写真のようなやすりで削っていきますが、両方やると1~2時間ぐらいかかります。グラインダーは鉄に熱を加えることになるのでダメという事にはなっていますが、問題ないとしてグラインダーで研いでいるプロのお店もあります。※自己責任でお願いします。
錆はとったほうがいいのか?→別に気にしなくていい
ネットには「錆をとろう」と書いてありますが、そんなに気にしなくても大丈夫です。アックスの話ではありますが、ペツルの用具のメンテナンスBOOKには「錆が強度に影響を与えることは無い」「錆はスポンジでとる」と書いてあります。こちら (pdfが開きます)
上の写真のグリベルのアイゼンは10年以上前の物ですが、錆に関してはノーメンテナンスです。気になる人はスポンジで錆をとると良いでしょう。
無駄に長いアイゼンバンドは切ろう
「アイゼンバンドの末端は結ぼう」という人も多いですが、寒い中かじかんだ手で結ぶと時間もかかるし、ちゃんと結べません。結んだとしても、歩いていると解けます。解けると、踏んでこけてしまうリスクがあります。
靴を履いて、靴紐をしっかりと締めた状態でアイゼンを装着し、末端を15~20cm程度残して斜めに切りましょう。末端はしっかりとライターであぶって固めましょう。ペツルのアイゼンの説明書には8cm、BDの説明書には15cmと書いてありますが、最初は長めに切ってから調整した方が失敗が少ないです。
もし、スキーブーツでも装着する事を考えているなら、登山靴ではなくスキーブーツで長さを調整しましょう。スキーブーツの方が大きいからですね。
おすすめアイゼンを表で比較!【7選】
以上の事を踏まえて、僕のオススメアイゼンをご紹介していきます。
【グリベル/エアーテックEVO・ニューマチック】歩きやすくて初心者にオススメ!
歩きやすさで選ばれてベストセラー。爪をあえて短くすることにより、岩や氷に引っかかりにくくなっています。また、歩行時にアイゼンの爪がゲーターに引っ掛かる事も少ない。
3列目の歯が横と縦に向いているので、登下降&トラバース時の安定感が良い。その代わり、爪が短いことによる深い雪の保持力は他のアイゼンに劣る。カカトにコバがあれば装着できるセミワンタッチです。
岩が露出している氷雪ルートに適したテクニカルクランポン
全ての爪が G12に比べて短めでフロントピースの3番目の爪は特に短く、またフロントピースの最後列の爪
は縦と横に向いているのが特徴のクランポン。これは岩や氷の多いルートでの登下降やトラバースにおいて
足を安定させることを目的とした設計。氷や岩をしっかりとらえるように爪の形状も工夫されている。氷混じ
りの岩稜や風で雪が飛ばされた岩のルートに好適。
【ブルーアイス/ハーファング アルパイン】とにかく軽量でコンパクト。それでいて十分な性能。
他の12本爪アイゼンと比べると、断トツで軽く、コンパクトです。最初の調整だけシビアですが、調整が済めば今後の標準となり得る革新的なアイゼンです。厳冬期の冬山登山にも、バリエーションにも対応できます。詳しくはこちらの記事をお読みください。※クリックで別タブで開きます。
ハーファングアルパインは、氷や岩のバリエーションがある地形に向かうときに理想的な12本爪のアイゼンです。
このアイゼンは、クロモリの前爪と後爪を備えています。 どちらにもアンチスノープレートが装備されています。 前爪は非対称で、最高のパフォーマンスを発揮します。他のハーファングシリーズと同様に、前後の爪を接続する中央のUHMWポリエチレンストラップを使用しています。 メインストラップの柔軟性は、かさばりを最小限に抑え、信じられないほどコンパクトな収納を可能にします。 ハーファンアルパインは、かかとコバ付きのブーツにフィットするように設計されており、2つのフロントベイルシステムが含まれています。ワンタッチ用とセミワンタッチ用で、簡単に交換できます。
サイズ:対応サイズ/22.5cm~28.5cm
重量:623g(ABSなしで571g)
素材:(センターストラップ)UHMWPE、HTPE(爪)クロモリ
【ペツル/バサック】オプションが豊富で様々なシーンに対応可能!
爪が長いので急斜面や深い雪などの保持力が高いです。セミワンタッチ式ですが、オプションとしてワンタッチ式にできるパーツが付属しているので、コストパフォーマンスに優れます。別売りの「バックフレックス」を購入するとバンド式(コバの無い靴にも装着可能)になる他、「イルビスフロントブロック」を購入すると10本爪にもなります。
12 本爪により、雪上歩行からバリエーションルートまで幅広い地形で高い安定性を発揮します。2つのバインディングシステムから選べるため、コバの有無にかかわらず、様々なブーツに対応します。
対応するブーツサイズ (ヨーロッパサイズ): 36 – 50
認証: CE EN 893, UKCA, UIAA
素材: スチール、ステンレススチール、アルミニウム、ナイロン
【ブラックダイヤモンド/セラッククリップ】歩きやすく、ちょっとしたバリエーションにも対応可能。
最大の特徴は前歯の形状。上から見ると先端がやや横に広く、横からみると鋭くなっています。蹴り込んだ時は雪に刺さりやすく、前爪で岩に乗るときには設置面積が増えるので安定します。2列目の歯は攻撃的にも関わらず歯は短め。3列目以降も歯は短めなので歩行性能・登攀性能がバランスよくとれたアイゼンです。
縦走登山からバリエーションまで対応するオールラウンド12本刃クランポン。従来モデルに比べフロントレイルがコンパクトになり、軽さとフィット感が向上しています。クリップバージョンは前コバの無いブーツにも装着できます。
【グリベル/エアーテックEVOオートマチック】エアーテックのワンタッチ版
歩きやすいエアーテックのワンタッチ式バージョン。登山靴とより一体感を出したい方や、スキーブーツとの装着などを考えているかたはこちらの方が良いです。
オーマチックは冬山用の前と後の両方にコバのある登山靴向けのシステムです。フロントベイルのループはスプリングの役割も果たし、ヒールのバインディングとともに靴をしっかりと固定するので一体感があります。
エアーテッククランポンは、G12に比べると全ての爪が短めに設計されています。それぞれの爪の形状や向きにも工夫がなされており、雪や氷の斜面だけでなく風で雪が飛ばされた岩稜など岩の露出の多いルートでも安定した歩行が出来きます。フロントピースがG12に比べ短めなのでつま先側に爪が寄っていて狭いスタンスでも多くの爪がしっかりとかかります。爪についている半円形の切り込みがいわゆる”返し”となり氷や岩へのグリップ力を高めます。
【ペツル/イルビス】歩行性能に優れる10本爪アイゼン
10本爪ではありますが、全体の爪が長く、雪に対して安定感があります。急斜面の無い雪山登山や、春などの残雪期の雪山登山に最適です。
軽量、コンパクトで耐久性の高いクランポン『イルビス』は、氷河歩行、クラシックマウンテニアリング、スキーツーリングのためにデザインされています。10 本爪により、硬い雪面を歩く際や氷に蹴り込む際に高い安定性を発揮します。2つのバインディングシステムから選べるため、コバの有無にかかわらず、様々なブーツに対応します。
【ブルーアイス/ハーファングエンデューロ】軽くてコンパクトな10本爪アイゼン
10本爪で、軽くてコンパクト、耐久性のある物を探している方にはこちらがおすすめです。傾斜の強くない雪山や、春などの残雪登山、バックカントリーにおすすめです。詳しいレビューは以下をごらんください。※クリックで別タブで開きます。
【まとめ】ビーコンやピッケルのおすすめもみる
今回はアイゼンの選び方とおすすめを解説しました。雪山登山には、雪崩ビーコンとピッケルも必要です。それぞれ以下のページで解説していますので、ぜひご一緒に読んでみてください。クリックで別タブで開きます。
アイゼンは自分の命を守るための大切な道具です。道具はネットで購入しても、使い方などについては、現地で経験のある方から学ぶのが一番です。
装着方法など、道具に関わることは自分でもしっかり予習できます。ネットよりも、先ずは説明書を熟読しましょう。説明書には大事なことがしっかりと書かれています。ネットやお店の人が必ずしも正しいことを言っているとは限りません。
ご自身の使い方に合ったアイゼンを見つけて頂ければと思います。