【雪山登山の始め方】初心者が確認すべき4つの段階と必要な装備|登山ガイドが解説
雪山の景色に憧れても、何から準備すればよいかわからない方は多いです。雪山のギアはどれも高価なうえに種類が多く、選び方を間違えると命に関わります。寒い雪山で「装備や知識が足りなかった」と気づくほど怖いものはありません。
登山ガイドの僕が、雪山登山の始め方を解説します。記事を読むと、次の3つがわかります。
- 雪山登山を始めるときの4つ段階
- 雪山登山に必要な装備と選び方
- 天気図の見方と遭難への備え
先に結論です。雪山登山は、次の3つを守って始めましょう。
- 最初はチェーンスパイクや軽アイゼンで歩ける雪の低山から始める
- 12本爪アイゼンとピッケルは、講習会で使い方を習ってから山で使う
- 雪崩ビーコン、スコップ、プローブは1人で登るときも必ず持つ
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雪山はどんな山でもリスクがある

インターネットには「初心者向けの雪山」を紹介する記事が多くあります。ただし、雪山は標高に関係なくリスクがあります。検索結果の上位にある情報が、あなたの技量に合うとは限りません。
低山でも悪天候になれば遭難します。晴れていても、凍った斜面では滑落の危険があります。なだらかな尾根でも、ホワイトアウトになれば道に迷います。登りでついていたトレースが、下山時には風で消えることも珍しくありません。
僕は中央アルプスの宝剣岳で、冬季のサギダル尾根を登りました。最も神経を使ったのは、核心の岩場よりも宝剣岳の山頂直下の下りです。斜度が強く、足を滑らせれば止まれない場所でした。
宝剣岳の周辺では、下山中の滑落事故が起きています。「一般ルートだから安全」とは考えないでください。
>>【宝剣岳】サギダル尾根~宝剣岳~宝剣山荘テント泊|宝剣岳中央稜撤退編
雪山登山は4つの段階で始める
雪山登山は、いきなり森林限界を超える山に登らないでください。段階を踏んで、装備と技術を1つずつ増やしましょう。具体的には以下のとおりです。
| 段階 | 行く山の条件 | 主な装備 | 身に付ける技術 |
|---|---|---|---|
| ①雪の低山 | 樹林帯の中を歩く標高1,000m前後の山。傾斜が緩く、登山道がはっきりしている | 冬用の登山靴、チェーンスパイク(軽アイゼン)、防水グローブ | 凍った道の歩き方、寒さへの対策 |
| ②講習会 | 山岳会や登山ガイドが開く雪山講習会 | 12本爪アイゼン、ピッケル、雪崩ビーコン | アイゼン歩行、滑落停止、ビーコン捜索 |
| ③森林限界の上 | ロープウェイで上がれる標高2,000m以上の山や、山小屋が営業している一般ルート | ②の装備、ハードシェル、ゴーグル | 強風とホワイトアウトへの対応、撤退の判断 |
| ④バリエーション | 雪稜や岩稜など、一般登山道ではないルート | ハーネス、ロープ、登攀具 | ロープワーク、支点の構築 |
段階1:チェーンスパイクで歩ける雪の低山から始める

最初は、樹林帯の中を歩く低山を選びましょう。樹林帯は木が風をさえぎり、目印も多いので道に迷いにくいです。凍った登山道なら、チェーンスパイクで十分に歩けます。雪が多い場合は軽アイゼンを使ってください。
冬は日没が早く、12月は16時台に暗くなります。下山は14時を目安に計画してください。
段階2:講習会や山岳会で技術を習う
12本爪アイゼンとピッケルは、持っているだけでは身を守れません。アイゼン歩行や滑落停止は、雪の斜面で繰り返し練習して身に付く技術です。山岳会や登山ガイドが開く雪山講習会に参加しましょう。雪崩ビーコンの捜索練習も、経験者と一緒に行うのが確実です。
ピッケル操作に自信があった僕も、滑落した時は止められませんでした。たまたま止まったので良かったですが、今でも忘れられない失敗談です。
段階3:森林限界を超える山に登る

森林限界を超えると、風をさえぎる木がなくなります。晴れていても、稜線では体感温度が一気に下がるので注意が必要です。視界を失うと、なだらかな斜面でも進む方向を見失います。
最初は、山小屋が営業している一般ルートを選ぶのが無難です。経験者と一緒に登り、引き返す時刻を決めてから出発しましょう。
雪の状態や量で難易度は大きく変わります。カチカチに凍った雪面は初心者には非常に危険です。ズブズブに腐った雪も怖いです。
段階4:雪稜や岩稜のバリエーションルートへ

一般ルートに慣れたら、ロープを使うバリエーションルートに挑戦できます。岩をアイゼンで登る練習をしてから行きましょう。ビレイステーションで待機する間は寒さに耐えたり、雪が付いた岩場はプロテクションが見つからなかったり取り難かったりします。
雪の状態によって、同じルートでも難しさは大きく変わります。「無理をしない」が一番大事だと思います。
>>【赤岳主稜】難易度やトポ図、必要な装備などを詳しく解説!冬季登攀
>>【元ガイドが解説】アルパインクライミングの始め方や装備|アルパインの種類や準備など
出発前に天気図を確認する:雪山の天気は急変する
雪山で最も怖いのは、天気の急変です。天気予報アプリの「晴れ」だけを見て出発するのは危険です。気圧配置を確認して、稜線の風と雪を予想しましょう。

冬の雪山で特に注意したい気圧配置は、次の3つです。
| 気圧配置 | 特徴 | 雪山での注意点 |
|---|---|---|
| 西高東低 | 西に高気圧、東に低気圧がある冬型の配置 | 日本海側の山は大雪と強風になる。太平洋側は晴れても稜線の風が強い |
| 南岸低気圧 | 本州の南岸を低気圧が東へ進む | 関東など、普段は雪の少ない地域に大雪を降らせる |
| 疑似好天 | 2つの低気圧の間で一時的に晴れる | 晴天は長続きせず、翌日には大荒れになる |
リスクのある天気図を読み取れるようになりましょう。南岸低気圧が通過した2018年1月22日には、東京都心で23cmの積雪を記録しました。2012年5月の大型連休には、発達した低気圧の通過で北アルプスが吹雪になっています。白馬岳では6人のパーティーが低体温症で亡くなりました。
春の大型連休でも、高山は真冬と同じ天気になります。天気図の読み方や過去の事例は、以下の記事で詳しく解説しています。
>>【雪山に行く前に】天気図の基礎的な知識を解説!過去の事例も紹介|事故を減らしたい
雪山登山に必要な装備一覧
雪山の装備は、夏山の装備に冬用のギアを加えて考えます。段階ごとに必要な装備は以下のとおりです。
| 必要になる時期 | 装備 |
|---|---|
| 段階1から必須 | 冬用の登山靴、チェーンスパイク、防水グローブと予備のグローブ、ハードシェル、保温着、ヘッドライト、テルモス、ツェルト、サングラス |
| 段階2から必須 | 12本爪アイゼン、ピッケル、雪崩ビーコン、スコップ、プローブ、ゴーグル、ヘルメット |
| あると便利 | ゲイター、バラクラバ、ワカンやスノーシュー |
| バリエーション向け | ハーネス、ロープ、アルパインヌンチャク |
登山靴:保温材が入った冬用を選ぶ

雪山用の登山靴には、保温材が入っています。厚手のウールの靴下と合わせるため、夏用の登山靴より少し大きめのサイズを選びます。(メーカーによってサイズ感は異なるため、実際に履いて選びましょう)
夏用の登山靴に厚手の靴下を履くと、つま先が圧迫されて血流が悪くなります。凍傷のリスクが上がるので、夏用の登山靴で雪山に行くのはやめましょう。冬用の登山靴はソールが硬く、アイゼンをしっかり装着できる作りです。
チェーンスパイク:凍った低山の登山道で使う


チェーンスパイクは、凍った道を滑らずに歩くための道具です。靴にかぶせるだけで装着でき、どんな靴にも使えます。爪が短いため、深い雪や傾斜の強い斜面は苦手です。森林限界を超える山では、12本爪アイゼンを使いましょう。
迷ったら、チェーンスパイクの元祖であるスノーラインのチェーンセンプロを選べば間違いありません。僕も愛用していて、全体のバランスが良いです。
ただし、チェーンアイゼンは凍った道は得意ですが雪が多いと滑りやすいです。雪が多い場合は軽アイゼンか、爪が長いチェーンアイゼンを選びましょう。詳しくはこちらで解説しています。
>>【おすすめ8選】チェーンスパイクを選ぶ5つのポイント|アイゼンとの違いや使用シーン
12本爪アイゼン:初心者は歩きやすいモデルを選ぶ

森林限界を超える雪山では、12本爪アイゼンが必要です。爪が長いほど急斜面で安定しますが、足に引っかけやすく歩行技術が求められます。
初心者は、2列目以降の爪が短めで、前爪が横爪のモデルを選びましょう。登山靴のコバの有無で装着できるアイゼンが変わるため、靴と一緒に確認してください。
初心者には、登山靴に合わせて自動でサイズが決まるブルーアイスのグリフィン12ユニバーサルがおすすめです。長年のベストセラーであるグリベルのエアーテックEVO・ニューマチックも、歩きやすさで選ばれ続けています。エアーテックEVO・ニューマチックは、かかと側にコバのある靴が必要です。
>>【2026年最新】12本爪アイゼンの選び方とオススメ7選を元登山ガイドが徹底解説
ピッケル:最初の1本は縦走タイプを選ぶ

ピッケルの最も重要な役割は、滑落したときに雪面に刺して体を止める「滑落停止」です。歩くときは杖として体を支え、硬い雪を削って足場を作るときにも使います。
最初の1本は、登りでも下りでも杖として使いやすい縦走タイプを選びましょう。長さは、身長165cm以下なら53cm、175cm以下なら58cmが目安です。
初心者には、リーシュが付属していてコストパフォーマンスの良いグリベルのネパールSAが無難です。
>>【2026年おすすめ16選】ピッケルの選び方|元登山ガイドが徹底解説【初・中級者向け】
グローブ:テムレスと予備のグローブを持つ

雪山でグローブがぬれると、手先が冷えて凍傷のリスクが上がります。防水生地の登山用グローブでも、湿雪や気温の高い日は内側まで濡れることがあります。僕のおすすめは、ショーワグローブのテムレスです。生地が水を通さないので、湿雪でもグローブの内側は乾いたままです。
テムレスは蒸れやすく、カラビナのゲートに引っかかりやすい欠点があります。透湿性のある登山用グローブを予備に持ちましょう。テムレスの中では、3本指で保温性と操作性を両立したTFmittenが最もおすすめです。
万能なのは02winterです。5本指で、袖口を絞れ、そこそこ温かいインナーが付いています。寒い日はウールの薄手インナーグローブとの併用がおすすめです。
>>【テムレス】湿雪への最適解:全6種類を分かりやすく解説|ミトンタイプは最強
雪崩ビーコン、スコップ、プローブ:1人で登るときも必ず持つ


雪崩の起きる斜面を通るなら、雪崩ビーコン、スコップ、プローブの3点は必ず持ちましょう。雪崩に埋まった人を見つけて掘り出すには、すべて必要です。1人で登る場合も、自分が埋まったとき、ビーコンを持つ他の登山者に捜索してもらえる可能性があります。
ココヘリやYAMAPなどの位置情報サービスは、雪崩ビーコンの代わりになりません。
ビーコンはトリプルアンテナで捜索範囲の広いモデルを選びましょう。初心者には、価格を抑えたピープスのパウダーBTか、軽くて高性能なマムートのバリーボックス2がおすすめです。
>>雪崩ビーコンの選び方とおすすめを徹底解説【バリーボックス2とS2の違い】
ウェア:雪山はレインウェアではなくハードシェルを選ぶ

雪山のアウターには、雪山用に作られたハードシェルを選びましょう。夏用のレインウェアは軽さを優先した薄い生地が多く、吹雪の中で長時間着続ける用途には向きません。ハードシェルは丈夫な3レイヤー生地で、ヘルメットの上からかぶれるフードが付いています。

ハードシェルは生地が丈夫なこと以外に「雪面を滑りにくい加工」が表面にされてます。雪面を滑落した際に少しでも速度を落とすためです。レインウェアは雪面をかなり滑りやすいので、滑落時のリスクが高いです。
雪の低山を歩く程度なら3レイヤーのレインウェアでも代用できます。森林限界を超える場合は安全のためにもハードシェルを用意してください。
中に着るウェアは、次の3層で考えます。
- ベースレイヤー:汗を吸って素早く乾かす
- ミドルレイヤー:フリースやダウンで体温を保つ
- アウター:ハードシェルで風と雪を防ぐ
綿の服は汗でぬれると乾かず、体を冷やします。雪山では綿の服を着ないでください。冬はウェアの性能が登山の成否を左右します。ウェアもギアの1つと考えて選びましょう。
ザック:30〜40Lを選ぶ

雪山登山は保温着やアイゼンが増えるぶん、夏山より荷物が多くなります。日帰りでも30〜40Lの少し余裕のあるサイズがおすすめです。生地に雪が付きにくく、ピッケルやアイゼンを外側に付けられるザックを選ぶと便利です。
>>【夏山&冬山】アルパインザックおすすめ9選|普通のザックとの違いは?
ヘッドライト:日帰りでも必ず持つ

冬は日が短く、行動時間に余裕がありません。下山が遅れたときのために、日帰りでもヘッドライトは必ず持ちましょう。寒さで電池が早く減るので、予備の電池も必要です。
>>【明るさだけじゃない】登山用ヘッドライトの選び方とおすすめ|9種類を比較
テルモス:温かい飲み物で体を温める
雪山では、ボトルに入れた水が凍ります。保温ボトルに温かい飲み物を入れて持っていきましょう。保温ボトルと口の広いボトルを持っていけば、口の広いボトルの中の水が凍っても、保温ボトルのお湯で溶かして飲めます。雪山も水分補給は重要です。
>>【元登山ガイドが結論】山専ボトルとモンベル アルパインサーモボトルどっちを買うべき?容量別の選び方も解説
サングラスとゴーグル:雪目と吹雪から目を守る

晴れた雪山では雪面の照り返しで強い紫外線を浴びます。サングラスをかけずに歩くと、目が炎症を起こす「雪目」になります。レンズの色はオレンジがオールマイティに使いやすいです。外側から目が見えないぐらい暗いレンズは薄暗い時に見えにくいので注意してください。
>>雪山でも夏山でも使える万能サングラス【ジュルボ/TREK】をレビュー!


吹雪の中ではサングラスでは顔を守れないためゴーグルも持ちましょう。現地でレンズが変えられるタイプだと様々なシチュエーションで使えます。
僕はSWANSの「呼吸するゴーグル・リッジライン」を愛用しています。曇り知らずでレンズ交換も簡単。1万円台のゴーグルを買うぐらいなら、奮発してリッジラインを買った方が絶対に良いです。眼鏡にも対応しています。調光モデル(明るさに合わせてレンズの色が変わる)がおすすめです。
ツェルト:日帰りでも必ず持つ

日帰りの予定でも、雪山には必ずツェルトを持ちましょう。けがや悪天候で動けなくなったとき、ツェルトをかぶるだけで風と雪を防げます。低体温症を防ぐための最も重要な道具です。
遭難に備える:登山届、山岳保険、低体温症の知識
雪山では、どれだけ準備しても遭難のリスクはゼロになりません。万が一に備えて、出発前に次の3つを済ませましょう。
登山届はコンパスで出す
山に行くときは、必ず登山届を出しましょう。登山届があれば、下山しなかったときに捜索の範囲を絞り込めます。オンラインで提出できる「コンパス」なら、家族にも行程を共有できます。下山したら、下山通知を忘れずに送ってください。
>>【登山届はコンパスで出そう】元登山ガイドが教える提出手順と下山通知の重要性
山岳保険に入る
雪山で救助を要請すると、民間ヘリや捜索の費用は高額になります。保険によっては、ピッケルやアイゼンを使う雪山登山が補償の対象外です。加入する前に、雪山登山が補償の対象か確認しましょう。
>>【元登山ガイドが解説】山岳保険の比較と選び方|登攀対応など保険の落とし穴に注意
低体温症を中度まで進ませない
低体温症は、登山での死亡原因の上位を占めます。震えがあり、意識がはっきりしている軽度のうちに体温を回復させましょう。
体温を回復させる基本は「食べる・隔離・保温・加温」の4つです。ツェルトで風を防ぎ、乾いた服と温かい飲み物で体を温めます。震えが止まり、受け答えがおかしくなったら中度です。中度になったら、すぐに救助を要請してください。
>>【低体温症を防ぐ】体温を下げない4箇条&レスキューを呼ぶタイミング、持つべき道具を解説。
まとめ
昔は、山岳会が登山の技術を教える場所でした。今はSNSで情報を集める人が増え、装備や知識の不足による遭難が目立ちます。インターネットの情報だけを頼りに雪山へ行くのは危険です。
雪山登山を始めるなら、山岳会への入会が最もおすすめです。現地で経験豊かな先輩から、装備の使い方と引き返す判断を教わりましょう。段階を1つずつ踏めば、雪山は長く安全に楽しめます。
>>【元ガイドが解説】アルパインクライミングの始め方や装備|アルパインの種類や準備など
>>【沢登りの始め方】沢登りとは?必要な装備や基礎知識、リスクについて
山岳会はもしかしたらルールが厳しい所もあるかもしれません。それは、山岳会内で過去に事故が起きた対策の結果かもしれません。大事な人を失えば、他の人にも同じ苦しみを味わってほしくないはずです。安全のためには多少の厳しさも必要だと僕は思います。

