クライミング道具の選び方

【基本】マルチピッチクライミングの手順&事前に準備すべきものを解説!

マルチピッチクライミングを始めてみたいけど、手順が不安という人も多いと思います。
経験豊富な人から現地で直接学ぶことが一番ですが、教えてくれる人が周りにいないという人もいると思います。

そんな方のために、元登山ガイドステージⅡ&元登山用品店に勤めていた僕が初心者向けにマルチピッチクライミングの基本的な手順と、岩場に行く前に準備すべきことをご紹介します!

この記事でわかること

■登山とクライミングの登山計画書の違い
■クライミングについて学べる超優良な書籍の紹介
■基本的なマルチピッチクライミングの手順
■そのほかマルチピッチで覚えておきたい支点やスリングの使い方について

そもそもマルチピッチクライミングとは?GIFで解説!

複数のピッチを登る=マルチピッチクライミング

マルチピッチクライミングを超簡単に言うと、
ロープの長さ(例えば50m)よりも長いルートを登る事を言います。

ショートルート(シングルピッチクライミング)

↑こちらのGIFは、いわゆるショートルート(シングルピッチ)ですね!

10~25mぐらいのルートを登ったり下りたりする感じです。
東京オリンピックのリードクライミン競技をイメージすると良いかもしれません。

 

マルチピッチクライミング

↑こちらのGIFが4ピッチのマルチピッチですね!

例えば、200mの長さのルートを50mのロープで登るとします。
ルートの長さ200m÷ロープの長さ50m=4
ロープ1回分(50m)が1ピッチなので、4回というマルチなピッチ=マルチピッチという感じです!
(1ピッチの長さはルートによって長い・短いがあります)

クライミングに行く前に準備すべきこと

登山計画書を必ず作成・提出をして、パートナーとも情報共有する

クライミングに行く前準備として、登山計画書の作成が重要になります。
登山計画書を作成することで、次の準備もすることができるからです。

■ルートの前情報を調べて、必要なクライミングギアを想定することができる。
■パートナーと情報共有する
■事故をした時の為に万が一に備える

計画書の中に持って行くクライミングギアを記入することによって、パートナーと情報共有と、出発前の最終確認ができます。
岩場について「え!俺がロープ持ってこなきゃいけなかったの!?持ってきてないよ~!」となったら困りますもんね。普通の登山とは違うところです。

▲装備表の一例 特に共同装備で誰が何を持って行くかが大事

上の画像は装備表の一例で、通常の登山の計画書に付表させます。
特に大事なのは、ロープやプロテクションなどの共同装備を、だれが何を持って行くかを明記することです。
上の画像では、青四角のところに名前を明記しています。
個人装備なのか共同装備なのかを分けることで分かりやすくしていますし、車両を乗り合いで行くならだれの車なのかも書くことによって、万が一の場合にスムーズに行くようにします。(車の種類や色、ナンバーまで書くと完璧)

近くの岩場やトポ図を探すのは書籍もオススメ

よっぽどエキスパートな人以外は、トポ図をあらかじめ入手しておきましょう。
(※トポ図=岩場のルート図を簡易的に分かりやすくした地図)
インターネットで入手しても良いですが、インターネットに無い場合や、情報があやふやな場合もあります。
そんな場合は書籍を買う事をオススメします。

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日本全国の主だった岩場を紹介しているのが、「日本100岩場」です。
初版が2011年なので、比較的新しい情報と言えます。
この本を頼りに近くの岩場を探して、最新情報はインターネットで探したり、その岩場に特化したトポ図があればそれを探すと良いです。

クライミングだけでなく、沢登り対象の谷まで網羅的に紹介しているのが「日本登山大系」です。(全10シリーズ)
特定の地域に特化した岩場のトポを網羅した書籍もありますが、インターネットで販売していない場合はこの本を入手しておきましょう。
情報が古いものもありますが、情報量がとにかく多いので自分の住んでいる地域の本を買っておくと、一つの読み物としても楽しめます。

クライミングの知識をまなべるオススメ本3選!

マルチピッチクライミングなどのフリークライミングの知識を書籍で学びたいなら、一番のオススメは「イラストクライミング」です
シングルやマルチピッチの手順、プロテクションの設置のしかたなど、幅広くイラストで紹介してあるのでとても分かりやすいです。
外岩での情報がとにかく多く、基本的な手順のほかにソロでの荷上げの仕方からハーケンの打ち方、人工登攀の仕方までマニアックなところまでイラストで紹介しています。
初版が2012年と比較的新しく、内容はまだまだ古くないので必ず買った方が良いです。

次にオススメなのが「クライミング道場」
かの有名なクライミング専門ショップ「カラファテ」のジャック中根さんが書いている本です。
内容はすでにクライミングを日常的に楽しんでいる中級者向けな気はしますが、初心者でも「イラストクライミング」の次に読む事で理解が深まるような内容です。
本の中で紹介されている、家で出来るクライミング上達のトレーニング方法は絶対にやった方が良いです。初版は2018年と新しく、情報も最新です。

室内のクライミングと外岩は何が違うの?を分かりやすく教えてくれるのが「アウトドア・クライミング」です。
室内クライミングを楽しんでいて、これから外岩のショートルートを登りに行くという人には大変オススメな本です。
また、著者はJFA(日本フリークライミング協会)でボルトの打ち替えをされている方で、ボルトの見分け方なども分かりやすく紹介されています。

アルパインを学べる書籍

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冬山から夏のバリエーションルートまで、イラストが多く大変わかりやすいですが、少しお堅い本です。
アイゼン歩行、ウェアの役割、支点構築の方法、クライミング時のトラブル対応方法まで大変わかりやすいです。
レスキューの方法も紹介されていますが、本で得た知識だけでは危ないと個人的に思うので参考程度にとどめておいたほうがよさそうです。

クライミングが対象されている山岳保険に加入しておく

クライミングに限らず、登山(山の中に入る)に行く人は必ず山岳保険に加入しましょう
オススメはココヘリです。

ココヘリのオススメポイント

■発信機がもらえる
■遭難時発信機を持っておけば、日本全国でピンポイントで発見してくれる
■捜索費用は550万円で、山岳保険JIROがセットで付いてくる(2022年~)
■アウトドア用品保証もついてくる(故障や盗難に3万円まで補償してくれる)

遭難した場合でも、発信機を持っていればヘリコプターでほぼピンポイントで発見してくれます。
2021年までは山岳保険がセットではなく捜索のみでしたが、2022年からは山岳保険がセットになりました。

年間費5,500円+初回入会金3,300円が必要です。
クーポンクードを利用することにより入会金の3,300円が無料になるので、入会がまだの方はこちらからどうぞ。

クーポンコードは【25758 】です。

マルチピッチクライミングの基本的な手順

登山計画書を準備して、山岳保険にも入会したら、いよいよ現地でクライミングを楽しみます。
岩場に付く前にパートナーと合流したら(駐車場などで)、簡単に口頭で装備の確認をします。
「ロープ持ってきた?カムは?ヌンチャクは何本?」
足りない装備や忘れ物があれば、早い段階で取りに帰れます。岩場について気付くよりは良いですよね。

天気の確認もしておくとより良いです。

1、取りつきに到着したら、装備の最終確認をする。

岩場の取りつき等でハーネスを装着してギアを準備する段階で、装備の最終チェックを行います。
修正箇所があれば遠慮なく言い合いましょう。無言で準備するよりは、適当に話しをすることで緊張も和らぎます。

▲さて、修正箇所はどこでしょう?

最初に登り始める人をリードクライマー。次に登る人をセカンドクライマーと言います。
ピッチが変わるごとにリードとセカンドは交代する場合もあれば、交代しない場合もあります。力量によって対応していきましょう。

リードクライマー
  • ヌンチャクの本数の確認(足りなければパートナーからもらう)
  • スリングなど、終了点構築に必要なギアの確認
  • プロテクション類の確認
セカンドクライマー
  • セルフビレーがとれるように準備をする
  • ビレー器具を準備しておく

2、登るためのロープの準備をする。セカンドクライマーはセルフビレーをとる

シングルロープかダブルロープで登るかはルート次第だと僕は考えています。
僕は高難度(5.11台後半みたいな)のルートを登るわけではなく、アルパインなクラシックルートを登ることが多いのでダブルロープを選択することが多いです。
どちらを選ぶか詳しくはこちらの記事で紹介しています。

取りつきの手前でロープをほどきます。
セカンドクライマー側からほどくと、リードクライマー側のロープがロープの束の上に来るのでスルスルとロープを繰り出すことが出来ます。

ダブルロープで登る場合は、ハーネスへの連結を右と左でしっかり分けておきます。
しっかり分けておかないと、ビレイヤー器具のあたりでロープがダマになったりします。
セカンドクライマーは、リードクライマーの墜落に備えてセルフビレーをとります

リードクライマーは登り始めます。

リードクライマー
  • ロープを結ぶ
  • クライミングシューズを履く
  • ギアの最終確認
  • ビレーをしてもらって、登り始める
セカンドクライマー
  • ロープを結ぶ
  • セルフビレーをとる
  • ビレーをする
  • ビレーが出来たことを伝えて、登り始めてもらう

3、リードクライマーが終了点に到着し、支点構築する。

リードクライマーが無事に終了点まで登ることが出来ました。
トポに記載されているピッチの長さと、自分が登った長さが体感的に同じぐらいだと感じられると良いです。

リードクライマーが終了点に到着したら、まずはセルフビレーをとります。
それぞれ別の支点で、PASとメインロープ(インクノット)でセルフビレーをとります。長さ調整はメインロープでします。PASが衝撃を吸収してくれる物ならPASで長さを調整しても良いですが、そうでないならメインロープで衝撃を吸収してほしいので、メインロープで長さ調整をします。

インクノットのヌンチャクは安全環付きを推奨されることもありますが、セルフを2つ取るなら安全環がなくても良いというが僕の考えです。
(今回は初心者向けに、セルフは必ず2つ取ることをオススメしています)
セルフが取れたら、「ビレー解除」とセカンドクライマーに伝えます

終了点をスリングなどで構築します。
終了点は自分の肩の高さぐらいで構築をすると操作がしやすいです。
スリングが長すぎると操作がしにくくなる場合が多いので、スリングの長さは80cmがオススメです。
終了点の構築方法はこちらの記事で紹介しています。


セカンドクライマーのビレー解除が確認できたなら、ロープを引き上げます。
カラビナを付けるとロープアップがしやすくなる時もあります。
引き上げたロープはセルフビレーにしているメインロープに、同じ長さで振り分けます。
振り分けたロープがあまりに長すぎたりスルスルと落ちてしまうと、岩角に引っ掛かったりしてトラブルに合う可能性が出てくるので注意しましょう。

セカンドクライマーはロープがダマになったまま上がらないように見ておきます。
ロープが上がり切ったら「ロープいっぱい」とリードクライマーに伝えて、登る準備を始めます。

リードクライマー
  • PASとメインロープでセルフビレーをとる。(それぞれ別の支点で)
  • セルフビレーがとれたら、ビレー解除と伝える
  • 終了点をスリングなどで構築する
  • ビレー解除が確認できれば、ロープを引き上げる
セカンドクライマー
  • リードクライマーから「ビレー解除」と聞こえたらビレーを解除する。
  • ロープが引き上げられ始めるのを確認する
  • ロープがダマにならないようにちゃんと引き上げられるのを確認する
  • ロープが全部上がったら「ロープいっぱい」と伝える
  • 登り始める準備を始める(靴を履いたり)

4、終了点でビレー器具をセットし、セカンドクライマーに登り始めてもらう

ロープが全部上がったのを確認出来たら、ビレー器具をセルフビレーの上側にセットします。
この時に終了点のスリングが長すぎるとビレー器具の操作がしにくいので、今のうちにセルフビレーの長さを変えたりして最終調整します。

ビレーしているロープをいっぱいに引き上げ、テンションがかかったことを確認してセカンドクライマーに「ビレーOK」と伝えます。
セカンドクライマーはビレーがされたのを確認できたら、登り始めます。

▲セカンドクライマーが登り始めます
リードクライマー
  • ロープが全部引きあがったのを確認する
  • ビレー器具にロープをセットする
  • ビレー器具がセルフビレーの上側にくるようにする
  • ビレーロープを引っ張り、「ビレーOK」とセカンドクライマーに伝える
セカンドクライマー
  • クライミングシューズを履く
  • リードクライマーから「ビレーOK」と聞こえたら、セルフビレーを解除する
  • 「登ります」と伝えて登り始める
  • 2~3m登り、ロープがちゃんと引き上げられるか(ビレーされているか)確認する
  • 確認できたら登り続ける

4、セカンドクライマーが終了点に到着し、次のピッチの準備をする

セカンドクライマーが無事に終了点に到着しました。

まずはセルフビレーをとります。
リードクライマーの時と同じで、PASとメインロープをそれぞれ別の支点で取るのがベストです。

ギアの受け渡しをします。
ギアは落とさないように、1つずつ慎重に受け渡しを行います。相手が忙しそうなら、終了点やPASにかけてあげてもOKです。

リードクライマーが交代しない場合と交代する場合で手順が少し異なります。
リードクライマーが交代しない場合(リードクライマーが引き続き次のピッチを登る)がこちら

リードクライマー
  • セカンドクライマーがセルフビレーをとるのを待つ
  • セカンドクライマーからヌンチャクなどのギアをもらう
  • 振り分けたロープをセカンドクライマーに渡す
  • ビレーをしてもらう
セカンドクライマー
  • セルフビレーをとる
  • リードクライマーにヌンチャクなどのギアを渡す
  • リードクライマーから振り分けたロープをもらう
  • リードクライマーのビレーをする

リードクライマーが交代する場合(つるべで登ると言います)はこちらです。

リードクライマー
  • セカンドクライマーがセルフビレーをとるのを待つ
  • セカンドクライマーにヌンチャクなどのギアを渡す
  • ビレー器具を終了点から一度外し、ボディービレーに切り替える(ハーネスのビレイループに付け替える)
  • セカンドクライマーに登ってもらう(セカンドクライマーはリードクライマーに変わる)
セカンドクライマー
  • セルフビレーをとる
  • リードクライマーからヌンチャクなどのギアをもらう
  • リードクライマーがボディビレーに切り替えるのを待つ
  • 登り始める(リードクライマーに変わる)
▲ギアの受け渡しが終わったら、ビレーする

ギアの受け渡しが終わったら、ビレーをします。

5、リードクライマーが次のピッチを登り始める

リードクライマーが登れる準備が整いました。
最初に登る人がリードクライマー、次に登る人がセカンドクライマーとなるので、ピッチごとに呼び名が変わります。

終了点で使ったスリングが空きとなったなら、まとめて次のピッチに持って行きます。(終了点セットと僕は呼んでいます)
流動分散を柔軟にとれる終了点セットなら、こうすることで、次の終了点でも支点が近ければこのセットを使う事で終了点の構築が一瞬で終わります。(支点次第では作り直す必要あり)
登り始める前から、あらかじめ終了点を作っておくのもオススメです。
その場合、リードクライマーとセカンドクライマーで終了点セットを1個づつ持っておくのも良いです。
流動分散が柔軟にとれる終了点の構築方法はこちらの記事で紹介しています。

▲リードクライマーは0ピンを取ってから登り始める

リードクライマーは0ピンをとってから登り始めます。
こうする事で、1ピン目前にフォールした場合セカンドクライマーが下側に引っ張られるのを防ぎます。
0ピンでは墜落係数を減らす事は出来ないので、リードクライマーは1ピン目をなるべく早く、強固に取る必要があります。
そうすることで、墜落係数を減らすことができます。(クライマーと終了点にかかる衝撃を少なくすることが出来ます)

▲リードクライマーが次のピッチを登る

以上の手順を繰り返して、山頂(トップ)を目指して登り続けます。
お疲れ様でした!

スリングでの終了点や中間支点の作り方&支点の種類について

スリングでの中間支点と終了点の構築方法や支点(アンカーボルト)の種類については、奥が深いので別の記事に詳しく書いています。
どちらも、マルチピッチクライミングをする上では必須の知識です。

支点の信頼度や種類についてはこちらの記事で詳しく解説しています↓↓

クライミングのボルトの支点や種類について図解解説!信頼できる支点とは?クライミングに出かけた際に、命を託すといっても過言ではないのがボルトなどの支点ですよね。 見た目では安全そうだけど、具体的にどうなって...

 

スリングを使った終了点の作り方や、中間支点の作り方の知識は必須なのでぜひとも読んでくださいね。
特にマルチピッチクライミングではスリングの知識は必須とも言えます!↓↓

【徹底解説】用途別スリング7選&クライミングでの使い方を分かりやすく解説!鎖場の通過で自分を確保したり、クライミングでの必須装備と言えば、スリングです。 でも、種類が多すぎて訳分からないですよね! ダイニー...

西日本の代表的なマルチピッチはこちら!

僕がこれまで行ったマルチピッチクライミングの記事です!
トポ図もありますので、今後、登りに行く方には参考になるのではないのかなと思います。

今はまだ数が少ないですが、今後増やしていく予定です!

クライミングトポ図クライミングのトポ図って、ネットで探してもなかなか見当たらないですよね。 ここでは、クライミングのトポ図などを公開していきます! (...

いざ、マルチピッチクライミングの世界へ!

マルチピッチクライミングの最大のだいご味は、クライミングで山頂に突き抜ける事だと思います。
(必ずしも山頂に抜けれるわけでは無いですが・・・)

ジムなどでは決して味わえない体験ができます!

このページではクライミングについて記述していますが、
クライミングは危険を伴うスポーツなので、思わぬ勘違いや間違った情報で重大な事故を起こす危険性が伴っています。

マルチピッチの技術習得一番の方法は、経験豊かな人と一緒にマルチピッチクライミングに行くことです。
そのための最初のステップになれればいいなと思います。

今回の内容が
「面白かった・ここがいまいち分からなかった・〇〇についても詳しく解説してほしい」
などありましたら、遠慮なくお問い合わせから言っていただけると助かります!

ではまた!

ABOUT ME
岩と沢さん
元登山ガイドステージⅡ・元登山用品店のショップ店員だった僕。 主にクライミングギアとアルパイン向けの服の販売をしてました。8年間務めた公務員を退職し、長年の夢だった海外登山を果すほどの登山愛好家。 お問合せなどお待ちしております!