【栄養学で解説】行動食の選び方とおすすめ|食べるタイミングや量
・行動食はいろいろ売られているけど、何が良いのか分からない
・行動食は食べればいいのか栄養学的な根拠が欲しい
・疲労回復にもよい行動食とは何か知りたい
登山では行動食が重要だと言われますが、栄養学の観点から説明できる人は少ないです。とりあえず、お腹が空かない程度食べればOKと考える方も多いです。
この記事では、「登山の行動食に必要なことを、栄養学の面から徹底的に解説」しています。
どういった基準で選べばよいかが明確になるので、今後行動食の選び方で迷うことが無くなります。結論は、炭水化物(糖質)をメインに、補助的にクエン酸やタンパク質を摂れば大丈夫です。しかし、食べやすさも重要です。以上の点から、詳しく解説します。
本記事は、以下の書籍を参考に書いています。
行動食が必要な理由と重要性
登山は自分の思っている以上にエネルギーを消費する運動です。短い時間であれば少々食べずとも歩けますが、数時間歩き続けるような登山であれば、適時エネルギーの摂取が必要です。エネルギーを上手に摂らないと、「シャリバテ」や「ハンガーノック」になり、思うように体が動かなくなります。
食べないとハンガーノック(筋肉が動かない)になる
下の図は、「登山の運動生理学百科 図2-20」を基に書いたものです。血糖値の低下と運動に対する「きつさ」を表したものです。血糖値が70を下回ると運動に対して「非常にきつい」と感じるようになります。
朝食を食べてない人は1時間30分できつさを感じ始め、2時間30分で動けないぐらい疲労しました。しかし、2時間30分の時点で糖分を補給すると、血糖値が上がって運動が「楽」に感じたという研究結果です。
登山で行動食を食べないと、血糖値が下がり「ハンガーノック」になります。ハンガーノックとはシャリバテとも言われます。上図のグラフの実験データのとおり、1~2時間程度では食べなくても活動に支障はありませんが、それ以上の行動となると疲労感を感じ始めます。
糖分を補給することで血糖値はあがりますが、急激に上がった血糖値は急激に下がるという性質があります。血糖値を急激に上げないためにも、低GI値の食べ物の摂取が薦められます。(後述)
食べないと脳の働きが低下する
行動食を食べないと、疲労感を感じやすくなるだけでなく、脳の働きが弱くなるという点にも注意が必要です。食事で摂取した炭水化物(糖質)は、体内で糖質の最小単位であるブドウ糖に変わります。ブドウ糖は、血液中にある脳や神経系などの唯一のエネルギー源です。
登山の事故は午前11時と午後3時が一番多いです。朝食や昼食を食べてから1~2時間たったころにエネルギーが枯渇し、脳の働きが弱くなって、注意力が散漫になるからだと言われています。
血液中のブドウ糖濃度を数値化したものが血糖値です。
(参考:戦う身体をつくるアスリートの食事と栄養P40)
スタミナとは筋肉に貯蔵されるグリコーゲンの量のこと
炭水化物(糖質)は、筋肉や肝臓にグリコーゲンという形で蓄えられます。筋肉中のグリコーゲンは、筋肉を動かすエネルギー源になります。グリコーゲンの量とスタミナは大きく影響しています。筋肉を動かすグリコーゲンをどれだけ蓄えられるかは、筋肉量と食事内容に影響されます。(参考:戦う身体をつくるアスリートの食事と栄養P40)
運動中に適切に炭水化物を摂取することで、筋肉内のグリコーゲンが補充され、スタミナが持続します。
炭水化物を摂取しないと、筋肉内のたんぱく質が分解されます。つまり、行動中に炭水化物を補給しないと、せっかく蓄えた筋肉を燃料として使ってしまうということです。(参考:登山の運動生理学百科 P52、戦う身体をつくるアスリートの食事と栄養P40)
行動食の選び方のポイント
僕の経験談になりますが、フランスのモンブランを登った際に行動食で大失敗しました。文字が読めないので、登山用品店で珍しい行動食を選んでモンブランを登りましたが、後半で強烈なシャリバテになりました。
今考えれば、圧倒的に炭水化物が足りなかったからだと分かります。行動食の適切な選び方について解説します。
炭水化物(糖質)をメインに選ぶ
「登山の運動生理学百科」によると、1~2日程度の登山では炭水化物が一番重要だと書かれています。長期間の登山となると、全ての栄養素が大事とも書かれています。炭水化物(糖質)は筋肉運動&脳の動力源となりますが、食いだめができないので、適度に摂取する必要があります。
脂肪もエネルギーの源として体内に多く貯蔵できますが、炭水化物との大きな違いがあります。下の図は、「登山の運動生理学百科 表2-4」を参考に、炭水化物と脂肪の違いを表したものです。
炭水化物(糖質) | 脂肪 | |
燃料として使えるところ | ・筋肉 ・脳 | ・筋肉 |
パワー | 大きい(脂肪の約2倍) | 小さい(炭水化物の約2分の1) |
容量 | 小さい(脂肪の約100分の1) | 大きい(炭水化物の約100倍) |
燃えやすさ | ・脂肪と一緒でなくても燃える ・乳酸が出ても燃える ・高強度の運動でも燃えやすい | ・炭水化物と一緒でないと燃えない ・乳酸がでるとあまり燃えない ・高強度の運動では燃えにくい |
炭水化物は大きな力となりますが、容量が小さいために何も食べないと1.5時間ほどでエネルギーが枯渇します。それに対して脂肪は、力は小さいですが一週間以上もエネルギーを出せます。しかし、脂肪は炭水化物と一緒でないと燃えない点に注意が必要です。
行動食を食べるタイミング
国際山岳連盟(UIAA)では、炭水化物を2時間に1回食べることを薦めています。長時間の運動をし続けるためには、炭水化物を2時間に1回摂取して、脂肪を燃やし続ける必要があります。炭水化物を摂取する際にクエン酸を一緒に摂ると、吸収が良くなります(グリコーゲンになりやすくなる)。
【GI値】低いほうが持続的運動に適している
GI値の高い物は、血糖値を上げやすい性質があります。急激に上がった血糖値は急激に下がるという性質があります。つまり、血糖値を急激に上げてしまうと、ハンガーノックになりやすいということです。
よく噛んで食べると、消化がゆっくりになり、血糖値の上昇は緩やかになるようです。GI値は必ずしもでは無いようですが、概ね以下のように分類されます。
GI値の傾向 | 食品の種類 |
低GI食品(55以下) | 大豆、レンズ豆、玄米、全粒粉パン、オートミール、ナッツ類、種子類、緑葉野菜、多くの果物 |
中GI食品(56~69) | 全粒粉パスタ、さつまいも、ヨーグルト、果物(リンゴ、オレンジなど) |
高GI食品(70以上) | 白米、食パン、パスタ、ポテト、砂糖菓子、清涼飲料水 |
デンプン類は血糖値をゆっくり上げ、効果も長持ちする。いわゆる腹持ちの良い食べ物です。ご飯や麺類、豆類の方が、パンやイモよりも腹持ちが良いとされています(参考:登山の運動生理学百科P53)
デンプン類はGI値が高いですが、血糖値をゆっくり上げ、効果が長持ちすることから、行動食だけでなく朝食にも良いそうです。
登山のカロリー計算で行動食の適量を知る
行動食はカロリーの多い物が良いですが、カロリーを摂りすぎてるのではないかと不安になる事も多いです。UIAA(国際山岳連盟)の医療委員会が推奨している、エネルギーの消費量の計算方法は以下のとおりです。
■荷物を背負ってない状態
エネルギー=体重×行動時間×6kcal
■10kgの荷物を背負った場合
エネルギー=体重×行動時間×7.5kcal
■20kgの荷物を背負った場合
エネルギー=体重×行動時間×9kcal
「体重60kgの人が、10kgの荷物を背負って8時間歩いた場合の消費カロリーは3,600kcal」の計算となります。登山中にこの全てのカロリーを摂取する必要はありません。なぜなら脂肪があるからです。
登山の運動生理学百科のP56では、上記の計算方法で出したエネルギーの半分~3分の1くらいのエネルギーを補給すれば良いと書いてあります。体重60kgの人が、10kgの荷物を背負って8時間歩いた場合の消費カロリーは3,600kcalなので、行動食として1,200~1,800kcal程度を摂取すればOKです。
1日の糖質の摂取量の目安は、体重1kgあたり7gとされています。(個人差有)
体重60kgの人は、420gの糖質を摂る必要があります。これは行動食だけでなく食事も含まれます。朝食や晩御飯も糖質が大事ということです。(参考:スポーツ栄養学P116)
食べやすさも重要
食べやすさも重要です。先日、槍ヶ岳の北鎌尾根を末端から歩いた際、飲み水が足りなくなったことがありました。その際、食べた行動食はナッツ類。口の中で水分を奪われ、吐き気を我慢しながら食べたのは良い思い出です。
羊羹やグミ類は、水分や元気が無くても食べやすいのでおすすめです。
筋肉疲労を軽減、修復してくれる栄養素もおすすめ
筋肉疲労を軽減したり、筋肉痛を予防したり、筋肉をつけたりするには、体内で生成できないアミノ酸(タンパク質)の摂取が必要です。
【タンパク質(アミノ酸)】筋肉疲労の回復
グリコーゲンの回復には、運動後すぐに糖質とともにタンパク質の摂取が有効です。この時に一緒にクエン酸を摂ると、グリコーゲンの回復がより促進されます。(参考:スポーツ栄養学P118)
運動中に炭水化物を摂取しないと、筋肉内のグリコーゲンが枯渇した際、タンパク質が分解されます。タンパク質が分解されると、筋肉疲労にもつながるので、タンパク質の摂取は大事です。
タンパク質は一度に吸収される量が決まっています。また、寝ている間によく吸収されます。行動食と、就寝前にタンパク質を摂ると良いでしょう。
【BCAA(アミノ酸)】筋肉疲労の回復
BCAAとは、筋肉の修復に必須のアミノ酸であるバリン・ロイシン・イソロイシンのことです。これらはタンパク質の最小単位であり、体内で合成できないため、食事から摂取する必要がある必須アミノ酸です。
BCAAは筋肉の修復に必須のもので、運動前30分、運動中、運動後30分にそれぞれ5~10g摂取することが推奨されています。(参考:クライマーズコンディショニングブックP66)
詳しくはこちらの記事をお読みください。
おすすめの行動食
これまでの解説を踏まえた上で、僕のおすすめの行動食をご紹介します。
アーモンドなどのナッツ類と、レーズン
アーモンド | ピーナッツ | レーズン | |
カロリー | 609kcal | 609kcal | 301kcal |
糖質 | 10.8g | 8.8g | 76.6g |
タンパク質 | 19.6g | 23.3g | 2.7g |
ナッツ類はカロリーが多く、タンパク質も豊富です。レーズンは糖質が豊富です。ナッツ類もレーズンもGI値が低いので、血糖値がゆるやかに上昇して急激に下がりません。栄養素だけを見れば行動食に最も向いていると思いますが、やや食べにくい点がデメリットです。
食べきれず余ったナッツ類は、家でビールのお供にしましょう。
【ようかん類】食べやすくて腹持ちも良く万能
井村屋のスポーツようかんは、封を切らずに食べれるので便利です。味も美味しい。コンパクトなので場所もとりません。パラチノースが配合されています。パラチノースは、ゆっくりと吸収されるため、エネルギーが長時間持続し、運動中のスタミナ維持や集中力アップに役立ちます。
一本(40g)あたり | |
カロリー | 113kcal |
炭水化物 | 26.5g |
タンパク質 | 1.4g |
福壽堂秀信のANDOは、水分の多いようかんです。さらっと飲めるので、水分が少ない時や疲れたときでも食べやすいです。
一本あたり | |
カロリー | 100kcal |
炭水化物 | 23.9g |
タンパク質 | 1.3g |
鼓月のanpowerは、BCAAが配合された羊羹です。登山に必要な栄養素を摂取しつつ、筋肉疲労などの回復にも効果があります。中身は普通のようかんで、普通においしいです。
一本あたり | |
カロリー | 97kcal |
炭水化物 | 24.4g |
タンパク質 | 1.6g |
【グミ】栄養素が多く、食べやすくて美味しい
パワーバーのパワージェル・ショッツは、必要な栄養素をしっかりと十分に備えつつも、普通に美味しいグミです。グミ好きにはたまらないですね。値段が高いですが、コレは良いですよ。
一袋(60g)あたり | |
カロリー | 211kcal |
炭水化物 | 49g |
タンパク質 | 3.8g |
【エネモチ】美味しいお米の機能的行動食
エネモチは、名前の通りエネルギーのあるモチです。食べ応えがありますがしっとりしているので食べやすいです。パラチノースが配合されています。パラチノースは、ゆっくりと吸収されるため、エネルギーが長時間持続し、運動中のスタミナ維持や集中力アップに役立ちます。
一袋(40g)あたり | |
カロリー | 149kcal |
炭水化物(糖質) | 27.2g |
タンパク質 | 1.5g |
【クッキー】栄養素のバランスに優れる
やや硬いクッキーですが、噛めば噛むほど味がしみでてくるクッキーです。普通に美味しいので、コーヒーのお供に食べたい感じです。栄養素がしっかり入っているので、万能な行動食です。
一個(45.7g)あたり | |
カロリー | 215kcal |
炭水化物(糖質) | 20.5g |
タンパク質 | 7.5g |
【POWBAR】自然由来にこだわりたい方に
自然由来にこだわって作られたエナジーバーです。いろいろな素材が硬められていて、飽きない味です。
一個(40g)あたり | |
カロリー | 180kcal |
炭水化物(糖質) | 18.1g |
タンパク質 | 3.2g |
まとめ
行動食として売られている物を購入して山で食べてみて、随時レポートしていきます。
機能的な行動食はやっぱり良いですが、なんと言っても数が必要な時には値段が気になる所です。その点、ナッツ類とレーズンをメインにしておくと、安く抑えつつも、登山に必要なカロリーや炭水化物、タンパク質が良い感じに摂れます。ナッツ類とレーズンだけだと水が少ないときは食べ辛いので、食べやすくて機能的なものを補助的に選べば良いと思います。
僕のおすすめは、ようかん類、エネモチ、グミです。クッキーもおすすめですが、水分が欲しくなる感じです。
今回はビタミンについては触れていません。ビタミンは体の調子を整えるものなので、こちらもおすすめです。また解説します。
ではまた!