【JSPOクライミングコーチが解説】懸垂下降のやり方|手順と安全確認を1つずつ
懸垂下降のセットを終えて、ロープに体重を預ける瞬間はいつも緊張します。支点やロープ、下降器のセットは、すべて自分で行います。間違いに気づかないまま荷重をかけてしまうことが、懸垂下降の怖さです。
JSPO公認クライミングコーチとして安全指導に関わってきた僕が、懸垂下降の手順を解説します。手順ごとに「何を確認するか」をセットで示すので、確認の癖をつけるつもりで読んでください。
結論は以下の3つです。
- セルフビレイは、すべての確認が済むまで解除しない
- ロープの両末端には、必ずストッパーノットを作る
- 下降器とカラビナ、バックアップ、末端を声に出して確認してから降りる
一人で練習する場合は、必ず斜度が緩くて落ちてもケガをしないところで行ってください。一人で懸垂下降を行って落ちてしまい、発見が遅れた方を知っています。
懸垂下降は、記事を読んだだけで身につく技術ではありません。はじめは必ず、講習や経験者の指導のもとで練習してください。
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懸垂下降とは|ロープで安全に降りるための技術

懸垂下降とは、支点にセットしたロープに下降器を通し、摩擦で速度を制御しながら降りる技術です。ドイツ語由来の「アプザイレン」や英語由来の「ラペリング」「リペリング」も、同じ動作の呼び名です。
ラペリングという言葉は、消防のレスキューや自衛隊の降下訓練、産業用ロープアクセスでも使われます。装備も手順も目的も違うため、以降はクライミングと登山の懸垂下降に絞って解説します。
懸垂下降が必要になるのは、主に以下の場面です。
- マルチピッチを登り終えて、同じルートを降りるとき
- 登攀の途中で敗退するとき
- 沢登りで滝を降りるとき
- 雪稜やバリエーションルートで、歩いて降りられない段差に出会ったとき
共通しているのは、降りる以外に選択肢がない場面だということです。準備が整っていない状態で下降を始めないことが、最初の安全対策になります。
沢登りでは懸垂下降を多用します。支点となる立木が丈夫な場合が多いですが、落石に注意が必要です。アルパインでは支点がモロい場合が多く、懸垂下降は気を遣うシーンが多いです。
懸垂下降に必要な装備7つ

懸垂下降に必要な装備と役割は、以下のとおりです。
| 装備 | 役割・ポイント |
|---|---|
| ロープ | 1本を折り返すなら降りる距離の2倍、2本を連結するなら各ロープが降りる距離以上の長さが必要 |
| ハーネス | ビレイループに下降器を連結する |
| 下降器 | ATC系のビレイデバイスやエイト環など。機種で制動力と扱いやすさが変わる |
| HMSカラビナ | 下降器の連結に使う。ロック付きを選ぶ |
| フリクションヒッチ用のコード | バックアップに使う |
| スリングとカラビナ | 支点のセットとセルフビレイに使う |
| ヘルメット | 落石と、ロープが引いて落とす石から頭を守る |
| グローブ | 丈夫な革製がおすすめ |
装備の中で、下降器とロープ径の組み合わせは出発前に必ず確認してください。ロープが細いと制動が効きにくく、太いと下降器に通りにくくなります。下降器の対応径とロープの径が合っているかは、家でも確かめられることです。
初心者のうちは「軽い、多機能」な道具を選ばないほうが無難です。定番商品にはそれなりの理由があるので、定番を選びましょう。
ロープの太さと種類の選び方は、別記事で詳しく解説しています。
>>クライミングロープの選び方
下降器として使うビレイデバイスの比較は、以下の記事にまとめました。
>>ビレイデバイスの選び方
ハーネスの比較は、以下の記事にまとめました。
>>ハーネスの選び方
懸垂下降のやり方|10の手順と確認ポイント
懸垂下降の手順を「やること」と「確認すること」に分けて解説します。手順の細部は、指導者によって違いがありますので、1つの例として読んでください。
全体の流れは以下のとおりです。
| 手順 | やること | 確認すること |
|---|---|---|
| 1 | 支点を確認する | ボルトや立木の状態 |
| 2 | セルフビレイをセットする | カラビナのロック |
| 3 | ロープをセットする | ロープが支点のリングに通っている |
| 4 | 末端を処理する | 両末端のストッパーノット |
| 5 | ロープを投げる・送り出す | 下に人がいないか、末端が届いているか |
| 6 | バックアップをセットする | 下降器より下の位置がおすすめ |
| 7 | 下降器をセットする | ロープの通し方とカラビナのロック バックアップに干渉しない長さ |
| 8 | たるみを取り、確認する | 声に出して指さし確認 |
| 9 | セルフビレイを解除する | ロープに体重を預けてから |
| 10 | 降りる | 制動手を離さない |
手順1:支点を確認する

ボルトやハンガー、残置スリングの状態を見ます。立木なら、太さだけでなく根の張り方や枯れていないかも確認しましょう。スリングが古ければ自分の信頼できる物と交換します。支点を使って良いかの判断基準は、別記事で詳しく解説しています。
>>クライミングの支点構築と残置支点の判断
手順2:セルフビレイをセットする

支点に自分を確保して、両手が使える状態を作ります。以降の作業は、すべてセルフビレイが効いている状態で行います。カラビナのロックは、セルフビレイをセットした時点で確認してください。
手順3:ロープをセットする


2本を連結する場合は連結ノットを結び、支点にロープを通します。連結には、フラットオーバーハンドノットを使います。末端は30cm以上残し、4本のストランドを1本ずつ引いて締めましょう。
ロープ径が違うロープを結ぶ際はダブルフィッシャーマンズベンドを使います。初心者はなるべく同じ径のロープを使いましょう。結び方は、写真つきで別記事にまとめています。
>>クライミングのロープワーク16選
ダブルフィッシャーで連結した場合のデメリットは2点あります。1,結び目が非常に固くなる。2,結び目が段差に引っかかり、ロープが回収できない場合がある。オーバーハンドノットはこれらを解決する結びです。
手順4のロープの末端を結ぶまではロープを落とさないように注意してください。末端をエイトノットで結んでカラビナに掛けておくとまず落ちることはありません。僕はクローブヒッチでバックアップすることが多いです。
手順4:ロープの末端を処理する

2本のロープの末端はダブルフィッシャーマンズベントかオーバーハンドノットでストッパーノットを作ります。ロープの長さが足りずに末端から抜け落ちる事故を防げます。エイトノットは解けてしまう可能性があるので使用してはいけません。
1本ずつストッパーノットを結ぶ方法もありますが、僕はおすすめしません。理由は懸垂の途中でロープ登高をすることになった場合、2本のロープに荷重が均等に掛からないことがあるからです。ただし、1本ずつ結んだほうがロープはキンクしにくいメリットもあるので、使い分けてください。
2本のロープを結ぶと、末端が重くなりロープを投げやすいメリットもあります。
手順5:ロープを投げる、または送り出す


下に人がいないかを確認し、声をかけてからロープを投げましょう。風の強い日や樹林帯では、投げるとロープが絡みます。足元に束ねて、降りながら送り出す方法もあります。
僕のおすすめはロープバッグを使う方法です。ロープの末端からロープバッグに入れていき、ギアループかビレイループにぶら下げる方法です。ロープバッグが無い場合は束ねたロープをスリングでまとめて同じくぶら下げましょう。
投げ方と送り出し方の使い分けは、ロープ回収の記事で詳しく解説しました。
>>懸垂下降のロープ回収|引けなくなる原因と防ぎ方
手順6:バックアップをセットする

フリクションヒッチをロープにかけ、ハーネスに連結します。結びはフリクションヒッチがおすすめです。制動力が適度に良く、プルージックコードを落とさずにセットできます。フリクションヒッチについては下記の記事で解説しています。
>>6種類のフリクションヒッチの使い方と特徴|プルージックコードの選び方とおすすめ
ロープが張って操作がしにくい場合は、ロープを踏んでも良いです。UIAAの教本にも書いてあります。
必ずしもバックアップを取る必要はありません。先に降りた人がバックアップの役割をすることで、二人目からは省略する方法もあります。アルパインや沢登り、マルチピッチで最初に降りる人は必ずやったほうが良いです。
手順7:下降器をセットする


下降器をセットします。バックアップを取っている場合は、スリングやランヤードで下降器を延長しましょう。下降器とバックアップが干渉すると止まらなくなるリスクがあるので、適切に離してください。下降器は手の届く範囲にセットします。
下降器をフリクションヒッチの下にセットする方法もあります。どちらにもメリットとデメリットがあります。初心者には下降器の下にフリクションヒッチがおすすめです。
下に取る理由と、効きすぎて動けなくなったときの対処は、別記事で解説しています。
>>懸垂下降のバックアップと登り返し
手順8:たるみを取り、確認する
支点と下降器の間、下降器とバックアップの間のたるみを取ります。現場はロープやギアでごちゃごちゃしていることが多いので、ここでしっかりと確認します。たるみがあるまま懸垂下降を開始すると危険です。たるみを取ったら、以下の項目を確認してください。
- ロープが下降器に正しく通っているか
- カラビナのロックが閉まっているか
- 両末端にストッパーノットがあるか
- バックアップが下降器より下にあり、効く状態か
- セルフビレイを付けたまま下降器に体重を預けて、システムが効いているか
確認は、声に出して指差しで行いましょう。パートナーがいるなら、お互いのセットを見合います。
手順9:セルフビレイを解除する

手順8の確認が済んでから、セルフビレイを解除します。順番が逆になると、確保が何もない一瞬が生まれます。セルフビレイの解除は最後と覚えてください。
手順10:降りる

制動手は、ロープから離しません。足を肩幅に開いて岩に置き、腰を落とした姿勢で降ります。両手で制動側のロープを握る必要はありません。片方は下降器の上でもいいです。フリクションヒッチは握らず、上から滑らせましょう。
懸垂下降中に確認する4つのこと
セットが正しくても、降りている最中の動作で事故は起きます。下降中は、以下の4点を意識してください。
- 制動手をロープから離さない:バックアップは補助で、制動の主役は手です
- 速度を上げない:速く降りるほど下降器が熱を持ち、制御が難しくなります
- 落石を起こさない:ロープが岩を引いて、石を落とすこともあります
- 末端までの残りを見る:空中懸垂では、残りの長さの感覚がつかみにくくなります
- 飛んだり跳ねたりしない:支点に衝撃を与え、ロープが傷つきます
降り切ったら下降器を外し、ロープを引いてスムーズに動くことを確認します。その後、落石の当たらない位置まで離れ、次の人に合図を送ります。落石の危険性が少なそうで有れば、末端を持って次に降りてくる人のバックアップの役割をしましょう。(末端を引けば降りている人は止まります)
ロープが岩を落としたり、下降中に浮石を落としたことは何度かあります。落石は本当に危ないので注意してください。
懸垂下降で起きる事故の5つの型と対策
懸垂下降の事故は、いくつかの決まった型で起きています。山岳団体が公開しているヒヤリハット事例でも、同じ型が繰り返し報告されています。
| 事故の型 | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 末端からのすっぽ抜け | ロープの長さが足りず、末端から抜け落ちる | 両末端のストッパーノット |
| 下降器の誤セット | ロープが正しく通っていない、カラビナがロックされていない | セルフビレイを解除する前の確認 |
| 支点の崩壊 | 状態を確認せずに残置支点を使う | 支点の判断と、可能なら支点の追加 |
| バックアップの解除不能 | フリクションヒッチが効きすぎ、宙吊りのまま動けなくなる | 登り返しの技術 |
| 途中での停止 | ロープが足りず、中途半端な位置で止まる | 懸垂距離の事前確認と、途中の支点の把握 |
| 髪が下降器に絡まる | 髪が引っ張られ、下降できなくなる。 | 髪が長い人は必ず後ろで結ぶ |
いずれの例も、技術が足りなかったのではなく、確認が抜けたことで起きています。手順ごとの確認を習慣にすることが、最大の事故対策です。
懸垂下降の練習はどこでする?
懸垂下降は、記事を読んだだけで身につく技術ではありません。荷重がかかったロープの挙動も、フリクションヒッチが効く感覚も、体験しないと分かりません。練習できる場所は以下の4つです。
| 練習の場所 | 特徴 |
|---|---|
| クライミングジムの高壁 | 設備と指導者がそろっている場合がある。懸垂下降の練習ができるかは事前に確認する |
| ガイドや登山教室の講習 | 手順を体系立てて教われる。最も確実な方法 |
| 山岳会 | 継続して教わり、繰り返し練習できる |
| 指導者が同行する低い岩場 | 地面に足がつく高さから始める |
どの場所でも、はじめは必ず経験者の目がある環境で練習してください。
懸垂下降に関するよくある質問
Q. ラペリングと懸垂下降は違うものですか?
A. 同じ動作の呼び名です。ラペリングは英語のrappelling由来で、リペリングと表記されることもあります。レスキューや降下訓練でも使われる言葉なので、文脈によって内容が変わります。
Q. ロープ1本でも懸垂下降できますか?
A. 可能です。ただし降りられる距離はロープ長の半分になり、回収の方法も変わります。1本で降りるときの考え方は、別記事で解説しています。
>>懸垂下降のロープ回収|引けなくなる原因と防ぎ方
Q. 下降器を落としたらどうしますか?
A. カラビナにムンターヒッチで代用する方法があります。ただし制動力もロープの摩耗も、通常のセットとは異なります。
動画で確認する
まとめ|懸垂下降は手順ごとの確認で事故を防ぐ
懸垂下降の事故の多くは、技術不足ではなく確認の抜けで起きています。手順を覚えることと、手順ごとに何を確認するかを覚えることは別です。セルフビレイを解除する前に、一度立ち止まって確認することが大切です。手順を覚えたら、経験者の指導のもとで練習してから岩場や沢に出てください。
実際の現場では、ロープが回収できない、途中で登り返す必要がある、支点が信用できないといった判断も必要になります。少しづつ経験を積んで、安全にクライミングを楽しみましょう!

