【JSPOクライミングコーチが解説】クライミング事故の主な原因と対策|よくある4つのパターンと具体的な防ぎ方
クライミングの事故のニュースを目にするたびに不安になる方は多いです。クライミングはリスクのある遊びですが、事故の多くは決まったパターンで起きていて、パターンごとに防ぎ方もあります。どんな事故が、なぜ起きるのかを知って、安全に楽しみましょう。
この記事では、山岳団体の事故統計をもとに、クライミング事故のよくあるパターンと、防ぎ方を解説します。この記事を読むと、事故を起こさないために何をすべきかが明確になります。
SNSでは短期間で人の目を惹くクライミングを行う方も多いです。僕の経験では「短期間にバリバリ登る人ほど、数年でクライミングをやめがち」です。今までそういった人を多く見てきました。おそらく、危ない目にもあってたんだと思います。長く安全にクライミングを楽しみましょう。
クライミング事故を統計でみる

日本勤労者山岳連盟(JWAF)では会員の事故データを毎月PDFで公開しています。年度の報告書には「”特に用具に関する事故が多い。アイゼン、スキーとストック、ロープ、ハーケン、にまつわる事故とビレイの失敗などである”」と記載があります。
クライミング事故の多くが、技術が足りないからではなく「確認不足」「大丈夫だと思い込んだ」のミスで起きています。ベテランでも、疲れ・焦り・慣れがあればミスをします。よくあるパターンを知って、ミスをしても事故に繋がらないようにすることが大切です。
>>引用(山岳遭難事故調査報告書)(JWAF Journal)
事故に繋がりやすい4つのパターンと対策
事故に繋がりやすい4つのパターンと、その対策について解説します。
パターン1|ビレイミス(確保ミス)
クライマーが墜落した際に、ビレイヤーが墜落を止められず、グラウンドフォール(地面までの墜落)させてしまう事故があります。また、地面が近い場所でたぐり落ちしてグラウンドフォールする事故もあります。
ビレイの際は以下のミスに気を付けましょう。
- 制動手(ブレーキハンド)を離してしまう
- ロープの繰り出しすぎで墜落距離が伸びる
- ビレイデバイスへのロープセットのミス
- クライマーとの体重差・立ち位置の問題で、ビレイヤーが制御できなくなる
ミスを防ぐために、登り始める前は必ずパートナーチェックを行ってください。クライマーとビレイヤーがお互いに指差しで確かめ合うことが大切です。
ビレイの基礎的な方法は以下のとおりです。
また、ビレイヤーとクライマーの体重差は大きくても30%以内が望ましいです。例えば体重70kgのクライマーは、ビレイヤーは体重55kg以上ある方にお願いしましょう。体重差を最大25kg軽減してくれるエーデルリッドのオームがあるとより安全です。
パターン2|懸垂下降のミス(事故が最も起きやすい場面のひとつ)
クライミング事故の約25%が懸垂下降で起きていると言われています。懸垂下降でのミスは死亡事故に繋がりやすいです。焦らず一つ一つの動作をゆっくり行ってください。
懸垂下降の際は以下のミスに気を付けましょう。
- ロープ末端のすっぽ抜け(末端を結んでおらず、ロープが下降器から抜ける)
- ロープの長さ不足(末端が地面・次の支点に届いていない)
- 2本のロープの長さの左右差(片側だけ先に抜ける)
- 下降器のセットミス
- 支点(懸垂支点)の強度不足・セットミス
最初に懸垂下降をする人はバックアップ(フリクションヒッチ)を行ってください。また、降り始める前には、セルフビレイを解除せずに体重をかけて懸垂のシステムが正しいかの確認が大切です。
基本的な懸垂下降の手順は以下のとおりです。
疲れているときほど省略したくなりますが、疲れているときこそミスが出ます。何のためにこの動作を行うのかを理解して、確実に行いましょう。
フリクションヒッチについては以下の記事で解説しています。
>>6種類のフリクションヒッチの使い方と特徴|プルージックコードの選び方とおすすめ
パターン3|ロワーダウンと結び・連結のミス
登り終わってビレイヤーに降ろしてもらうロワーダウンの場面や、ロープの結びによる事故も実際に起きています。
トップロープで登る場合も、以下の点に気を付けましょう。
- ロワーダウン中にロープ末端がビレイデバイスを抜ける(末端未処理)
- ハーネスへのエイトノットのミス(荷重をかけると結びが解ける)
- トップロープ支点への掛け替え時の手順ミス
登る前にはロープの末端・結びの相互確認が大切です。ロープの末端は必ず止め結びをしてください。ハーネスのエイトノットは自分で確実に結べるようになりましょう。

トップロープで複数の人が交代で登る場合、安全環カラビナを使うことがあります。カラビナを通す場所が違い、体重をかけた瞬間に解けてしまったという事故も起きています。詳細は上図のとおりです。
リードで終了点まで登った際は、安全に降りるために結び替えを行いましょう。具体的には以下のとおりです。
パターン4|自然が相手の事故(落石・氷や岩の崩壊)
落石、岩の崩壊、氷の崩壊にも注意が必要です。僕は落石が顔の真横を通り過ぎてザックに当たった経験もありますし、落石がロープを切断した経験もあります。僕はアイスクライミングはあまりしませんが、JWFAJournalの中でアイスクライミング中に氷が崩壊しての事故報告は多いです。
落石が起きやすそうな地形の見極め、または気温などの判断力は登る技術以上に大切なスキルです。ヘルメットは常時着用し、氷の状態が読みきれないときの撤退など、リスクを減らす具体的な行動を行いましょう。
事故を防ぐ実践チェックリスト
安全のために行うべきことをチェックリストにまとめます。
登る前(パートナーチェック)

パートナーチェックは毎回相互確認することが大切です。自分だけが行うよりも、パートナーにもその大切さを知ってもらう必要があります。「お互いの為、相手の為」と共通の認識をお互いで持てるかどうかがポイントです。
実際に確認する個所は多いですが、最低でも以下の点は必ず行いましょう。
- 上下のタイインポイントにロープが通っているか
- ウエストベルトのバックルに適切に通っているか
- ハーネスが正しく装着されているか
- ビレイデバイスに正しくロープがセットされているか
- カラビナは完全にロックしているか
- ビレイヤーは制動手でロープを握り、クライマーはロープを引いて止まるか確認する
- ロープの末端処理はされているか
懸垂下降の確認
アルパインクライミングでは支点の強度が不明な物も数多くあります。ハーケンが抜ける事故も多いので注意しましょう。立木を使う場合は、最低でも自分の腕ぐらい太いものを使うようにしましょう。
- 支点の強度・状態を確認する
- 残置スリングが信用ならない場合は、自分の手持ちの捨て縄を使用する
- ロープ末端はダブルオーバーハンドノットで結ばれているか
- ロープは適切に振り分けられているか
- 降りる場所の目途が立っているか
- 下降開始前に荷重テスト
それでも事故は起こり得る|万一への備え
登山は事故のリスクをゼロにはできません。もし事故を起こしてしまったら、の備えまで整えておきましょう。
登山届は必ず提出する
クライミング・アルパインでも、登山計画書を提出しておくと捜索の初動が早くなり、見つけてもらえる可能性が上がります。遭難した場合は生死問わず見つけてもらうことが大切です。無料のオンラインシステム「コンパス」なら数分で提出できます。
山岳保険に加入する
クライミング・沢登り・雪山は保険用語で「山岳登攀」にあたります。一般向け保険では対象外になる場合があります。山岳登攀対応の保険に加入しているか、いま一度確認しましょう。
まとめ
クライミング事故の多くは、ビレイミス・懸垂下降ミス・結びのミスといった、よくあるパターンの人的ミスで起きます。パターンを知り、お互いの相互確認を徹底することで多くのミスは防げます。また、登山は自然が相手なのでリスクを0にはできません。ときには登らない判断も大切です。
過去に起きた事故は多くの気づきを与えてくれます。安易に事故を批判するのではなく、どうすれば事故を防げたか、自分はどうするべきかを考えることが大切だと思います。そして僕はそれをどう伝えるべきか、を考えて当記事を作成しました。この記事が、皆さんの安全につながれば幸いです。

