クライミング・沢登り用品の選び方

クライミングロープのおすすめと選び方【ダブルとシングルの違いとは?】

ダブルロープとかツインロープとかシングルロープとか・・・
初心者のうちはそんなこと言われても、違いなんてよく分からないですよね。

ここでは、元ガイド資格保有&元登山用品店に勤めていた&
週に一度は必ずクライミングやアルパインに行く生粋の登山好きな僕が

■シングルロープとダブルロープのメリット、デメリット
■マルチでの使い方の違い
■撥水処理についてのいろは
■使用シーンごとの、シングルかダブルの選び方

を説明しています!

このページを読むと、マルチ、沢、雪でのロープ選びの基準が分かるようになります!

マルチでのダブルとシングルの登り方の違い

シングル&ダブル、それぞれのメリットとデメリット

マルチピッチでは、ダブルロープもしくしはシングルロープで登る方法があります。
(ツインロープはほぼアイスクライミング用なので、ここでは除外)

どちらにも、メリット・デメリットがあります。

シングルとダブルを比較

シングルロープ

ダブル(ハーフ)ロープ

メリット
ロープさばきが楽
(スピーディー)
■終了点でロープがごちゃごちゃしにくい。
■ロープがダマになったり絡んだりしにくい
■太いロープの安心感
■懸垂下降での撤退がしやすい
■ロープの流れがスムーズ
ロープがよく伸びるので支点への墜落衝撃が少ない
(プアプロテクション※1に有効)
■ロープが2本ある安心感
デメリット
懸垂下降での撤退が難しい
(バックアップロープなどの準備が必要)
■万が一ロープが切れた時の事故が大きくなる
■ロープの流れに注意しないといけない
(ルートを選ぶ)
終了点でロープがごちゃごちゃしがち
■ロープ2本分の重量がかかる
■ロープが絡みやすい

文章では分かりにくいので、図で説明します!

※1プアプロテクション
浅いクラックへのカム、いつ設置されたか分からないハーケン、古いリングボルトなど。
いつ抜けるか分からない支点の事。

ロープの流れの違い

このように、支点があったとします。
どのようにロープをクリップしていくでしょうか?

シングルロープの場合

シングルロープだと、屈折点が多くなる可能性がありますね!
おそらく、リードクライマーはロープの流れが悪く、ロープが非常に重く感じることだと思います。
(実際にはスリングなどを使用して、シングルロープでもロープの流れを良くします。詳しくはこちらの記事)

ダブルロープの場合

ダブルロープだとすっきりしますね!
これだと、ロープの流れも良く、リードクライマーは気持ちよく登れると思います。

ダブルロープの間違った例

ダブルロープでも、こうなってしまっては意味がありません。
シングルロープよりもややこしいことになります。

難しい箇所を抜けるときなんかはこういう形になってしまいがちです。
(焦っちゃうからですね!)
慣れないうちはヌンチャク掴んででも、ゆっくり確実に安全に登りたいですね!

懸垂下降での違い

50mのシングルロープでの懸垂下降

50mのルートを、50mのシングルロープで懸垂下降するとします。
(本来はロープの末端は結んでくださいね)
ロープを終了点で折り返さないといけないので、50mのシングルロープだと25mしか懸垂が出来ない(降りれない)ことになります。

25m降りたところに懸垂下降が出来る支点があれば良いですが、無ければ最悪の場合撤退できません。

バックアップロープを使った懸垂下降

なので、シングルロープで登る場合は懸垂下降用のバックアップロープを持ってたりします。(写真黄色ロープ)
このロープは細くて軽く、コンパクトではありますが、懸垂や荷上げ専用なのでクライミングには使用できない物が多いです。

50mのダブルロープでの懸垂下降の場合

ダブルロープだと、二つのロープを結ぶことによって50m懸垂下降できますね!
(上の図では分かりやすく書いてますが、実際には結び目をずらします。ロープの末端も結んでくださいね)

ダブルロープだと、登った分だけ降りる事が出来ます。
懸垂下降の支点が有るかどうかが分かるので安心ですね!

懸垂下降は事故が多く、1つのミスが大きな事故につながりやすいです。
日本のトップクライマーも事故を起こすので、しっかりと現地で信頼できる人に習いましょうね。事故のレポートはこちら

ロープが切れてしまう可能性への違い

シングルロープでルートを登っているとします。

フォールしてしまいました。
運悪く、フォールしたところには出っ張った岩があり、岩角でロープが強くこすれてしまいました。

シングルロープはダブルロープよりも太い場合が多く、ロープが切れにくい物が多いです。
今回はロープが切れずに済みましたが、ロープには大きなダメージが加わってしまいました。
これ以上の登攀はストップした方が良さそうです。

同じルートをダブルロープで登るとします。

フォール!
赤いほうのロープは岩角にぶつかって切れてしまいました。
青いロープは切れてないので、なんとか更に落ちることなく助かることが出来ました・・・

この二つの事例はとても極端な例ですが、万が一の可能性としてありますよね。
ロープのこすれによるロープ切断の実験動画はこちら

フォール以外でも、落石によりロープが切れる可能性もあります。
(宮崎の比叡山で冷蔵庫大の落石を見た時は肝が冷えましたね・・・)

ダブルロープとシングルロープの規格の違い

ダブルとシングルの規格の違いと、特徴

具体的に、ダブルロープとシングルロープは何が違うのでしょうか?
大きな違いを表にまとめてみました。

P社シングルロープP社ダブルロープ
直径10.1mm8.0mm
重量65g/m44g/m
耐墜落回数(落下率1.77)80kgの重りで7回55kgの重りで7回
伸び率(静荷重)8.5%11%
伸び率(動荷重)34%33%
衝撃荷重8.5kN6.3kN

UIAAという国際山岳連盟により、テスト方法は決まっています。
そのテスト方法にのっとった結果が上の通りですね。

まとめると

シングルの特徴
  • 太くて重い
    →耐久性があり丈夫
  • 静荷重の伸び率が少ない
    →トップロープやユマーリングに最適
  • 衝撃荷重は大き
    →支点がしっかりしてるなら大丈夫
ダブルの特徴
  • 細く、軽くてコンパクト!
    →細い分耐久性には劣る
  • 静荷重の伸び率が大きい
    →ユマーリングには不向き
  • 衝撃荷重が少ない
    →支点に優しい。アルパイン向け

かなり大雑把にまとめてみました。
もちろん一概には言えないですが、ある程度の参考になると思います。

それぞれの項目の違いを具体的に見ていきましょう!

直径

字のごとく、ロープの太さですね。
シングルロープの方が太く、ダブルロープの方が細い場合が多いです。

P社シングルロープP社ダブルロープ
直径10.1mm8.0mm

 

太さによる違い

太い

  • 耐久性が高い
  • ビレイデバイスでの制動が強い
  • 岩角で切れにくい
  • コンパクト
  • ロープの流れが良い
  • ロープが伸びる

細い

重量

1mあたり何gかが分かります。

P社シングルロープP社ダブルロープ
重量65g/m44g/m

50mのシングルロープの場合、65g/mだと、65g×50m=3.25kg
50mのダブルロープの場合、44g/mだと、44g×50m=2.2kg
という事になります。

シングルロープの方が重く、ダブルロープの方が軽いですね!

耐墜落回数(落下率1.77)

UIAAによる、ロープの墜落テストの動画を見てみましょう。

約5mの高さから、
■シングルロープは80kg
■ダブルロープは55kg
の重りをぶら下げて、何回目でロープが切れたかの回数をテストしています。
(UIAAでは5回以上耐えないと不合格)

P社シングルロープP社ダブルロープ
耐墜落係数(落下率1.77)80kgの重りで7回55kgの重りで7回

この回数が多いほど、ロープの耐久性は高いといえます。

墜落係数は、落下距離÷繰り出したロープの長さで求めることが出来ます。
上の図だと、終了点から2.5m登った所で落ちてしまいました。
墜落距離は、ロープが出ている2.5mの2倍になるので5mになります。

落下距離5m÷繰り出したロープの長さ2.5m=墜落係数2
墜落係数2は極めて大きいです。

これだとどうでしょう。
分かりにくいですが、先ほどと同じで繰り出したロープの長さは2.5mです。
2m登った時点で支点にロープをクリップして2.5m登った時点で落ちました。
なので、墜落距離は1mになります。

落下距離1m÷繰り出したロープの長さ2.5m=墜落係数0.4

最初の支点を早く取ることが、墜落係数を大きくしない=安全のために必要な事!

伸び率(静荷重)

80kgの重りをぶら下げた時、どれだけロープが伸びているかの数値です。

P社シングルロープP社ダブルロープ
伸び率(静荷重)8.5%11%

シングルロープよりもダブルロープの方が伸び率が高い=よく伸びる事が分かります。

静荷重の伸び率が高いと

■ユマーリングがしにくい(ロープを使って登る)
■トップロープがしにくい

ですね!
ユマーリングやトップロープは伸びにくシングルロープの方がしやすいです。

伸び率(動荷重)

UIAAフォールテストでの一回目の伸び率のことを言います。
良く伸びてくれる方が、落ちた時の衝撃を吸収してくれます。

P社シングルロープP社ダブルロープ
伸び率(動荷重)34%33%

伸びてくれる方が、身体&支点へのダメージが少ないです。
ただし、よく伸びる方がロープの寿命も短いとされています。

衝撃荷重

墜落時に身体が受ける衝撃を数値化したもの。値が小さいほど衝撃吸収性に優れます。

P社シングルロープP社ダブルロープ
衝撃荷重8.5kN6.3kN

シングルロープとダブルロープでは大きく値が変わる所です。
ダブルロープの方が、大体の場合衝撃荷重が少ない。
衝撃荷重が少ないと、身体へのダメージばかりではなく支点への衝撃も弱まります

強固な支点が少ないアルパインや沢では、衝撃荷重が少ないロープの方が良い!

シングルとダブルの両規格を満たしたロープ

ここまででシングルロープとダブルロープの大まかな違いを説明してきましたが、
シングルロープの基準にも合格したダブルロープというのも有ります

両規格を満たしたロープのメリット、デメリット

製品名E社/シングル&ダブル規格
合格ロープ
P社シングルロープP社ダブルロープ
直径9.2mm10.1mm8.0mm
重量52g/m65g/m44g/m
耐墜落回数80kgの重りで5回

55kgの重りで20回

80kgの重りで7回55kgの重りで7回
伸び率(静荷重)8%8,5%11%
衝撃荷重80kgの重りで8.2kN

55kgの重りで6kN

8,5kN6.3kN
税込値段50m
31、900円
50m
23,100円
50m
20,350円

値段も膨れますが、確かに性能はダントツで良いですね!
両規格合格ロープはメリットもありますが、デメリットもあります。

メリット
  • マルチを3人で登るロープに適している
  • 複雑な登攀システムが可能
  • シングル・ダブル両方の使い方が出来る
デメリット
  • ロープは硬め。しなやかさに欠ける
  • 値段が高い
  • シングルとしては細く、ダブルとしては太いので中途半端
  • シングルメインとして使うなら耐久性が心配

となってしまいがちです。
なんだかデメリットの方が多い気がしますね。

僕も使っていますが、なんだかんだ出番が少なかったりします。
(重宝するときはとても重宝しますが・・)

3人で登るときに使うのが良い

一番のメリットは「3人でマルチを登る」時かなと思います。

3人で登る場合は、このような感じになります。

シングルロープを2本使うのが安心ですが、重いし、ビレーも大変だと思います。
セカンドとサードで登る人は、ロープにそれほど衝撃はかからないとしても大きな壁を細いダブルロープで登るのは結構怖いです。

シングルの規格に通ったダブルロープだと、どちらのデメリットも無くなりますね!

ロープに対する撥水処理の違い

撥水処理をするメリット

シングルロープでも、ダブルロープでも、
外岩で使用するならロープに対する撥水処理がされている物を選んだ方が良いです。

撥水処理されたロープを選んだ方が良い理由

防塵性と耐摩耗性が上がる
表面に撥水処理がしてあると、チリや砂がロープに付着しにくくなる。
ビレイデバイスでの使用がしなやかになる
古くてけば立ったロープは、思わぬ抵抗力がでたりします。
雨に濡れても重くなりにくい
冬は凍りにくい

一概には言えませんが、このようなメリットがあります。
引用元:ベアール ワークブック
https://www.beal-planet.com/catalogues/BEAL_WORKBOOK_2021_EN_ST.pdf

各メーカーの撥水処理の表記

撥水処理の内容については、各メーカーで異なりますが、
大まかに各メーカーの撥水処理については以下の通りです。

表面だけの撥水処理
(ロープの耐久性をあげる)
  • ペツル
    デュラテックドライ
  • ベアール
    ドライカバー
  • エーデルワイス
    エバードライ
UIAA基準。繊維一本一本の撥水処理
(冬でも凍りにくい)
  • ペツル
    ガイドUIAAドライ
  • ベアール
    ゴールデンドライ
  • エーデルワイス
    スーパーエバードライ
  • エーデルリッド
    プロドライ&エコドライ
  • マムート
    ドライスタンダード

 

表面だけの撥水処理は、どちらかというとロープの耐久性を上げる為。
UIAA基準の撥水処理は、冬でも凍らないようにするための撥水処理だといえます。

■UIAA基準の撥水テスト
1,ロープの表面に軽い摩擦が加えられる
2,水に15分間浸す
3,吸水率がロープ重量の5%未満で合格

撥水処理がなにもされてないロープは50%の水を吸水し、
表面だけの撥水処理は20~40%吸水するので、かなり厳しい検査だといえます。

UIAA合格品だとしても、各メーカーによって吸水率は変わります。
■エーデルワイス社のスーパーエバードライは吸水率0.8~1.4%!

引用元:UIAA 撥水処理の新基準
https://theuiaa.org/home/new-uiaa-standard-developed-for-water-repellant-ropes/

撥水処理されてないロープを買うメリット

UIAA基準の撥水処理をされたロープは、耐久性も上がりますが値段も高いです!
インドアクライミングなどの、ロープの寿命が短い使い方をする場合には、撥水処理をされていない安価なロープを買い替える方が良いですね!

逆に、週1ぐらいでしか使わないマルチや外岩のロープは、撥水処理がされてある方が結果的に安上がりかもしれませんね。

使用シーンごとに具体的にオススメのロープはこれだ!

沢登りや雪山にはエーデルワイスのディスカバー!

沢登り&雪山のオススメロープ
エーデルワイスのディスカバー40mがオススメ!
8mmと細いながらも、UIAA耐墜落テストでは14回という強度の高さのあるツインロープ。UIAA撥水が施されているので水も含みにくいので、沢で使うとロープの軽さが良くわかります。42g/1mととても軽いのも雪や沢では嬉しい。
なんといってもエーデルワイスはロープが痛みにく、信頼性が高い!
径/重量8mm/42g
UIAA耐墜落テスト14回(55kgの重り)
衝撃荷重9kN
伸び率7%

アルパインには衝撃荷重の少ないベアールのコブラ!

支点が強固ではない&古い物が多いマルチピッチ
ベアールのコブラがオススメ!
ダブルロープの中でも衝撃荷重が5.3kNと小さい。支点に対する衝撃が少ないロープ。ロープのしなやかさも良い。
8.6mmはダブルロープの中ではやや太めかもしれないが、その分ビレイデバイスとの相性は良い。軽さを極限まで追求しないのであればバランスのとれたロープ。値段も安いのがうれしい。
冬山でも使いたい方はゴールデンドライを選ぶと良い。
径/重量8.6mm/49g
UIAA耐墜落テスト16回(55kgの重り)
衝撃荷重5.3kN
伸び率9%

シングルでマルチを登るなら、エーデルリッドのイーグルライトプロ!

支点が強固なマルチピッチ
シングルロープを選択する場合は、エーデルリッドのイーグルライトプロドライがオススメ!
9.5mmはシングルロープの中ではやや細め。長いルートを登るときは細い方がロープも軽く感じるので良い。径のわりにロープが非常にしなやか!イーグルライトはUIAA耐墜落回数も多いので、マルチでも安心して使える。
径/重量9.5mm/62g
UIAA耐墜落テスト10回(80kgの重り)
衝撃荷重9.3kN
伸び率7.5%
エーデルリッド Eagle Lite 9.5 mm( Red – 50 m )

ショートルートメインならベアールのバイラス!

外岩やインドアでのショートルートクライミング
ベアールのバイラスがオススメ!
なんといっても安いです。性能としては普通なので十分使える!外岩やインドアではロープの使用頻度が高くなり、ロープの同じ個所にダメージが負いやすい。安いので適度な買い替えが良いです。外岩では使っている人がとても多い印象。
初心者の一本目にもオススメです!
径/重量10mm/63g
UIAA耐墜落テスト9回(80kgの重り)
衝撃荷重7.4~7.6kN
伸び率8%
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その他のマルチピッチに必要な装備

【用意したい物20選】マルチピッチクライングの装備を徹底解説!マルチピッチでお悩みの方は必見!マルチピッチクライミングの装備や手順、支点構築の方法などで悩んでいませんか?この記事ではそれらについて徹底解説&比較をしています!マルチピッチを始める手助けになれば幸いです!...

 

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是非ご覧ください。

ABOUT ME
岩と沢さん
元登山ガイドステージⅡ・元登山用品店のショップ店員だった僕。 主にクライミングギアとアルパイン向けの服の販売をしてました。8年間務めた公務員を退職し、長年の夢だった海外登山を果すほどの登山愛好家。 お問合せなどお待ちしております!