雪崩ビーコンの選び方とおすすめを徹底解説【バリーボックス2とS2の違い】
雪山では雪崩ビーコンは必ず必要ですが、値段も高く、選び方がわからない方は多いです。選び方で迷い、安さにつられて中古で古いビーコンを購入してしまうと、メーカーのサポートを受けられません。この記事では、初心者~中級者向けに雪崩ビーコンの選び方とおすすめを解説します。
雪崩ビーコンは、アンテナ数と距離で選ぶと間違いないです。雪崩ビーコンの値段の違いは、捜索機能に特化しているかどうかなので、初心者は無理に高い物を選ぶ必要はありません。適切な雪崩ビーコンを買って、万が一に備えましょう。
オススメは、ピープス社のパウダーBTです。正規で新品で売られている物の中でも安く、必要な機能が全て揃っています。アフターサポートも手厚いので、まず間違いありません。
なぜ雪崩ビーコンが必要なのか?
雪崩ビーコンは、雪崩に対する唯一のセルフレスキューの道具です。バックカントリーユーザーだけでなく、登山者は全員持つべきです。必要な理由について詳しく解説します。
雪崩ビーコンの役割と重要性
雪崩ビーコン1つで、以下の2つの役割を果たします。
・雪崩に埋まった時に見つけてもらう(送信モード)
・雪崩に埋まった人を探す(捜索モード)
ココヘリやRECCO、YAMAP、ライフビーコンなどは雪崩ビーコンの役割を果たせません。周波数の違いから、雪崩ビーコン以外の位置を特定する物は障害物(雪)に弱いからです。雪崩ビーコンであれば、1人で雪崩に遭遇しても、他の登山者が雪崩ビーコンを持っていれば捜索してもらえます。
バックカントリーユーザーが持つべきとの記事もありますが、雪山に行く人は全員持つべき道具です。「尾根しか歩かないから大丈夫」と考える方も多いですが、ホワイトアウトした雪山で道に迷ってしまうと、意図せず雪崩地形に入り込んでしまう可能性があります。
万が一雪崩に埋まってしまった場合、残された家族や長時間捜索に当たる人たちのためにも、雪崩ビーコンを持ちましょう。1人で登る場合も雪崩ビーコンは必須です。
雪崩ビーコンの種類と特徴、注意点
雪崩ビーコンにはいくつかの種類と特徴、注意すべき点があるので解説します。
デジタル式とアナログ式の違い
現行モデルで販売されている雪崩ビーコンはデジタル式です。昔の雪崩ビーコンはアナログ式でした。デジタル式の雪崩ビーコンを選びましょう。大きな違いは以下のとおりです。
昔のデジタル式の雪崩ビーコンの中には、アンテナが1本の物もあります。アンテナが1本だと、デジタル機器や金属の干渉を受けやすく、正確でスピーディな捜索ができません。メルカリなどで安く出品されている雪崩ビーコンは、アナログ式の古い雪崩ビーコンがほとんどなので注意しましょう。
他人と別の雪崩ビーコンを使っても問題ない
雪崩ビーコンは電波を発信・受信する機械です。電波は欧州規格で周波数が45kHzと決まっています。正規で売られている物なら他人と別のモデルの雪崩ビーコンを使っても問題ないので、安心して選びましょう。
基本的に、充電式の電池は使えない
雪崩ビーコンは、アルカリ乾電池やリチウム乾電池の1.5Vの物しか使えません。エネループなどの充電式の電池は、電圧が1.2Vと低いので使ってはいけません。同じ理由で、USBで充電する電池も使えません。
充電式の電池は、表示は100%でも、実際は80%や60%など低い可能性があります。電池の寿命は捜索に関わる大事な表示です。雪崩ビーコンでは充電式の電池は使わないようにしましょう。
ビーコン選びのポイント
ビーコン選びのポイントを、重要な物から解説します。全てのビーコンが同じ画面やボタンでは無いので、事前に取扱説明書を必ず読みましょう。
トリプルアンテナの雪崩ビーコンを選ぶ
上図は雪崩ビーコンの内部を写したものです。下側と左側に1本づつ、もう1本は小さい丸い物があります。それぞれのアンテナが直線、横、深さを測るので、雪崩に埋まった人をスピーディかつ正確に見つけられます。
現行の雪崩ビーコンは、アンテナが3本内臓(トリプルアンテナ)されている物が主流です。自分が雪崩に埋まった場合は、位置を正しく発信できるメリットもあります。雪崩に埋まった際の姿勢や向きによっては、シングルアンテナは正しい位置を送信できません。
捜索帯域幅(捜索範囲)が広い雪崩ビーコンを選ぶ
雪崩ビーコンには、電波の届く範囲(捜索帯域幅)があります。範囲が広いほど安全だと言えます。現行の雪崩ビーコンの捜索範囲の目安は50m~80mです。
捜索帯域幅はスマホやデジカメ、行動食のパウチなどの影響を受けます。雪崩ビーコンと電子デバイスは、最低20cm離す必要があります(推奨は50cm以上)。
≫参考:ロストアロー(雪崩ビーコン、電子デバイスの干渉)
一昔前は、マムートのバリーボックスが捜索帯域幅が一番広く、人気がありました。2024年現在、最も捜索帯域幅が広い雪崩ビーコンはピープス社のプロIPSです。
操作性が良く、パニック状態でも使いやすい物
雪崩ビーコンは、直感的に操作ができるように工夫されています。雪崩ビーコンにはさまざまな機能がありますが、雪崩に埋まっている場合は操作は必要ありません。雪崩に埋まっている人を探す際に操作が必要です。
雪崩ビーコンはさまざまな機能が備わっていますが、初心者がまず覚えるべきは、3つのボタンとその機能です。具体的には以下のとおりです。
■捜索モード(SEARCH)
雪崩に埋まった人を見つけるときに使います。捜索モードのまま雪崩に埋まってしまうと見つけてもらえません。捜索モードから自動で送信モードになる雪崩ビーコンがおすすめです。
■送信モード(SEND)
通常は送信モードにして、体に装着し、雪山に入ります。送信モードだと、捜索モードのビーコンに見つけてもらえます。
■マークボタン(旗のマーク)
2人以上の登山者が雪崩に埋まった際の捜索で使います。雪崩ビーコンは近い埋没者(電波の強い)から自動的に距離を表示します。距離の近い埋没者の位置を特定して、マークボタンを押すと、その埋没者の電波を受信しなくなるので、次の人を見つけやくなります。
値段の高い雪崩ビーコンの中には、捜索に特化した物があります。ツアーを担当するガイドなどは、捜索に特化した値段の高い雪崩ビーコンを持つべきですが、初心者は必ずしも持つべきではないと考えます。もちろん、初心者でも捜索に特化した雪崩ビーコンを持つ方が安全です。
値段で躊躇して雪崩ビーコンを持たないよりも、値段で躊躇せずに持ってもらいたいです。
バッテリー寿命
雪崩ビーコンは、送信モードで何時間使えるかが重要です。時間が長い方が、雪崩に埋まってしまった場合でも見つけてもらえる期間が長いです。高性能な雪崩ビーコンは、バッテリー寿命も長いです。なるべく長い物を選びましょう。
雪崩ビーコンの電源を入れると、電池残量が表示されます。一般的には、日帰りなら60~80%、一泊以上なら100%の電池残量が必要です。
自動復帰の有無
捜索モードから発信モードに自動で切り替わる機能があります。雪崩が発生し、捜索を行っている場合、再び同じ場所で雪崩に襲われる可能性があります。捜索モードのまま雪崩に埋まってしまうと、見つけてもらうことができません。
雪の中で雪崩ビーコンを操作することはできません。自動復帰については、「捜索モードで何分も動かない場合に発信モードに切り替わる」ものが多いです。自動復帰が付いてないモデルもあるので注意しましょう。自動復帰が付いている物を選ぶとベストです。
アップデートの有無
雪崩ビーコンは高性能なスマートフォンだと考えてください。スマートフォンがアップデートするように、雪崩ビーコンもアップデートできる機種があります。過去には、他のビーコンとの電波干渉が改善されたり、電池の持ちがよくなったりといったアップデートがありました。
おすすめの雪崩ビーコン
おすすめの雪崩ビーコンは以下のとおりです。
「ピープス/パウダーBT」安価かつ必要な性能が揃ったビーコン
円安にも関わらず、現行モデルの中では唯一3万円台のビーコン。安い理由は、「輸入元と同じ値段で国内販売をする」という輸入代理店の企業努力があるからです。捜索帯域幅が60mと広く、操作も簡単。画面も見やすいです。スマートフォンで簡単にアップデートも可能。
≫ロストアロー「パウダーBT取扱説明書」
アンテナ数 | トリプルアンテナ |
捜索帯域幅 | 60m |
自動復帰の有無 | 有(アプリで設定が必要) |
バッテリー寿命 | 450時間(送信モード、アルカリ電池使用時) 550時間(送信モード、リチウム電池使用時) |
アップデートの方法 | スマートフォンとアプリを使用 |
重量 | 220g(電池込み) |
外寸 | 118×76×29mm(縦×横×「奥行) |
特徴 | 安価で、必要最低限の機能が全て備わっています。 |
「マムート/バリーボックス2」7年ぶりのアップデート!
7年ぶりのフルモデルチェンジでアップデートされた点は以下のとおりです。
・電池が2本になり、22%薄く、14%軽くなった
・専用アプリでアップデートができるようになった
・解析速度(距離表示)が速くなった
・音声ガイダンスが追加された(バリーボックスS2のみ)
・MIP液晶搭載で、電池の寿命が延び、屋外で見やすい(バリーボックスS2のみ)
≫参考:Mammut公式のニュースリリースページ
電池2本にも関わらず、バッテリー寿命が450時間と長いです。装着時のストレスになりにくく、雪崩に埋没しても長時間動き続けてくれます。ピープス社のパウダーBTよりも薄くて性能が良い物が欲しい人は、バリーボックス2がおすすめです。
≫参考:Mammut公式「バリーボックスユーザーズマニュアル」
アンテナ数 | トリプルアンテナ |
捜索帯域幅 | 70m |
自動復帰の有無 | 有(捜索モード時に4分間動かない場合) |
バッテリー寿命 | 450時間(送信モード、アルカリ電池使用時) |
アップデートの方法 | スマートフォンとアプリを使用 (旧タイプはアプリ使用不可) |
重量 | 180g |
外寸 | 115×68×21(縦×横×「奥行) |
特徴 | 旧タイプのバリーボックスと比べ、薄くて軽いです。解析速度も上がっているので、捜索スピードが上がりました。 |
「ピープス/プロIPS」電磁気の干渉を受けにくい
雪崩ビーコンは、スマートフォンやカメラ、アルミなどが近くにあると、電磁の影響を受け、捜索帯域幅が性能通りに発揮できません。プロIPSは、唯一電磁の干渉を受けにくい「電磁気干渉保護システム」が搭載された雪崩ビーコンです。(すべての干渉源を排除できるとは限らないので、20~50cm以上離すことが推奨されています。)
捜索帯域幅もトップクラスの80mです。アンテナを広げると捜索モード、アンテナを閉じると送信モードになるので、操作も非常に分かりやすいです。間違いなく、最も機能性に優れたビーコンだと思います。
≫ロストアロー「プロIPS取扱説明書」
アンテナ数 | トリプルアンテナ |
捜索帯域幅 | 80m |
自動復帰の有無 | 有(モーションセンサー) |
バッテリー寿命 | 600時間(送信モード、アルカリ電池使用時) 800時間(送信モード、リチウム電池使用時) |
アップデートの方法 | スマートフォンとアプリを使用 |
重量 | 212g(電池込み) |
外寸 | 120x75x24mm(縦×横×奥行) |
特徴 | 他の雪崩ビーコンには無い電磁気干渉保護システムと、最も捜索帯域が広い80m。アンテナを伸ばすと捜索モード、畳むと発信モードになるのも分かりやすいです。 |
「オルトボックス/ダイレクト」電池交換不要
オルトボックスのダイレクトは、タイプCで充電できます。電池交換をする必要がありません。発信モードから捜索モードへの切り替えは、先端のオレンジのタブを上げるだけなので分かりやすいです。
≫マジックマウンテン「取扱説明書」
ダイレクトとダイレクトボイスの2種類あります。違いは、音声ガイダンスの有無のみです。ダイレクトボイスは音声ガイダンスで捜索できますが、2024年時点で日本語には未対応です。
アンテナ数 | トリプルアンテナ |
捜索帯域幅 | 50m |
自動復帰の有無 | 有(捜索モードで動かないまま2分経過後) |
バッテリー寿命 | 200時間(送信モード) |
アップデートの方法 | スマートフォンとアプリを使用 |
重量 | 210g(+ハーネス80g) |
外寸 | 120x79x23mm(縦×横×奥行) |
特徴 | タイプCで内臓のバッテリーに充電できるので、新品の電池が無くてもモバイルバッテリーなどで山の中でも充電できる。 |
「マムート/バリーボックスS2」音声ガイダンスで捜索できる
7年ぶりのフルモデルチェンジでアップデートされた点は以下のとおりです。
・電池が2本になり、22%薄く、14%軽くなった
・専用アプリでアップデートができるようになった
・解析速度(距離表示)が速くなった
・音声ガイダンスが追加された(バリーボックスS2のみ)
・MIP液晶搭載で、電池の寿命が延び、屋外で見やすい(バリーボックスS2のみ)
≫参考:Mammut公式のニュースリリースページ
バリーボックスS2と2では画面のインターフェースが異なります。S2の方がより分かりやすくなっています。分かりやすい画面に加え、音声ガイダンスで、素早く簡単に捜索ができるように工夫されています。最大16名の埋没者を探せるなど、より捜索に特化したモデルです。
アンテナ数 | トリプルアンテナ |
捜索帯域幅 | 70m |
自動復帰の有無 | 有(捜索モード時に4分間動かない場合) |
バッテリー寿命 | 450時間(送信モード、アルカリ電池使用時) 550時間(送信モード、リチウム電池使用時) |
アップデートの方法 | スマートフォンとアプリを使用 (旧タイプはアプリ使用不可) |
重量 | 180g |
外寸 | 115×68×21(縦×横×「奥行) |
特徴 | バリーボックス2よりも、より捜索に特化したモデル。 |
「BCA/トラッカー4」堅牢でシンプルなビーコン
雪崩ビーコン本体の周りにラバーが装着されているので、衝撃に強いです。液晶画面がシンプルかつLED表示なので、サングラスをしてても見やすいです。シンプルで堅牢な雪崩ビーコンが好きな方にはおすすめです。
≫BCA公式「商品説明ページ」(英語サイト)
アンテナ数 | トリプルアンテナ |
捜索帯域幅 | 55m |
自動復帰の有無 | 有 |
バッテリー寿命 | 250時間(送信モード) |
アップデートの方法 | 電池蓋の中のUSBを使用 |
重量 | 215g(電池込み) |
外寸 | 120×75×26mm(縦×横×「奥行) |
特徴 | 堅牢でシンプルな雪崩ビーコン |
「ARVA/EVO5」最もコンパクト
とにかく軽くてコンパクトな雪崩ビーコンが欲しい方におすすめです。本体横の赤いボタンをスライドさせるだけでモードを切り替えれます(ロック有)。雪崩ビーコンに必要な機能はそろっています。
≫ARVA公式「エボ5商品ページ」(英語サイト)
アンテナ数 | トリプルアンテナ |
捜索帯域幅 | 50m |
自動復帰の有無 | 有(一定時間動かない場合) |
バッテリー寿命 | 200時間(送信モード) |
アップデートの方法 | 無 |
重量 | 165g(電池込み) |
外寸 | 111×72×20mm(縦×横×「奥行) |
特徴 | 最も軽く、コンパクト |
まとめ
雪崩ビーコンを装着してなかったゆえに、捜索が長引いてしまった事故も過去に起きています。自分の命も当然ですが、残された家族や捜索に関わる方のためにも、適切な雪崩ビーコンを選んでいただければと思います。
雪崩ビーコンは精密機械です。スマートフォンやパソコンと同じだと考えています。皆さんが命を預けるだろう精密パソコンを購入する際に、メルカリやヤフオクで古い雪崩ビーコンを購入するでしょうか。とはいえ、雪崩ビーコンは高価ですから、選び方で迷う方も多いと思います。
僕のオススメは、ピープス社のパウダーBTです。新品で購入する場合、最も安価で、必要な機能が全て揃っている雪崩ビーコンです。選び方に迷った場合は、ぜひこちらを選んでみてください。
リコールや不具合などが起きた場合、正規輸入代理店で購入しておくと、手厚いサポートを受けられます。ピープスの正規輸入代理店であるロストアロー社は、サポートが非常に充実しているのでおすすめです。
雪山登山には、ピッケルとアイゼンも必要です。以下のページで詳しく解説しています。ぜひ一緒に読んでみてください。クリックで別タブで開きます。